大坂なおみ選手の昨年からの躍進は目覚ましく、今年の1月にはついに女子テニス協会(Women’s Tennis Association: WTA)のランキング1位に立ちました。
大坂選手と言えばインタビューでの「なおみ節」もチャーミングですが、最大の魅力は試合での強烈なサービスではないでしょうか??
そこで今回は、WTAランキングトップ100の女子テニス選手のサービスの傾向を検討した村田(2018)の概要をご紹介します。
サービスに関するスタッツ
女子テニス協会(Women’s Tennis Association: WTA)ランキング100位内の選手を対象に、公式ホームページから下記のスタッツを取得しました。
・サービスエース数(エース数)
・ダブルフォルト数
・サービス時の総ポイント取得率(総ポイント取得率)
・1stサービスが入った確率(1st成功率)
・1stサービスが入った際のポイント取得率(1st取得率)
・2ndサービスが入った際のポイント取得率(2nd取得率)
また、取得したスタッツから下記のスタッツを算出しました。
・1stサービスでポイントを取得した確率 = 1st成功率 × 1st取得率
・2ndサービスでポイントを取得した確率 = (1-1st成功率) × 2nd取得率
尚、1stサービスでのポイント取得率と2ndサービスでのポイント取得率の和が、上述の総ポイント取得率となります。
ランキングとキープ率の関係
ランキングが高い選手ほどキープ率が高く、トップ20の選手では70%程度、100位付近の選手では60%程度でした。
総ポイント取得率と1st/2ndサービスでのポイント取得率の関係
サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、どちらのサービスでも高い確率でポイントを取得しており、特に1stサービスでのポイント取得率が高いことが分かりました。
総ポイント取得率と1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率の関係
サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、どちらのサービスが入っても高い確率でポイントを取得していましたが、1stサービスが入った際のポイント取得率が特に高いことが明らかになりました。
女子選手の場合、1stサービスが入った際のポイント取得率は60%程度、2ndサービスが入った際のポイント取得率は40~55%程度と報告されていますが、この研究の取得率も同様でした。
尚、男子選手の場合、1stサービスが入った際は70~80%程度、2ndサービスが入った際は40~60%程度の確率でポイントを取得することが報告されています。
総ポイント取得率と1stサービスの成功率の関係
1stサービスの成功率は50~70%程度でしたが、サービス時の総ポイント取得率とは関係がないことが分かりました。
上図のように2ndサービスが入った際には40~50%の確率でポイントを取得できることから、1stサービスが入らなくても総ポイント数には影響しなかったようです。
ダブルフォルト数とキープ率の関係
1試合あたりのダブルフォルト数は、キープ率にほとんど影響しないことが分かりました。
よって、ダブルフォルトを犯すことよりも、ダブルフォルトを恐れて1stサービスの成功率を低下させたり、弱いサービスを打って1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率を低下させたりする方がキープ率を低下させると考えられます。
エース数とキープ率の関係
1試合あたりのエース数が多い選手ほどキープ率が高いことが分かりました。
ただし、ほとんどの選手のエース数が6本以下でした。
ストレートで勝った場合のサービスゲームは6回ですから、女子選手が各ゲームで1本以上のエースを取る確率はかなり低いようです。
エース数と1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率の関係
1試合あたりのエース数が多い選手は、1stサービスが入った際にポイントを取得する確率が高いことが分かりました。
「エース数の多い選手」とは「強いサービスを打てる選手」と考えられます。
よって、エース数が多かった選手は強い1stサービスでラリーの主導権を握り、3球目以降の攻撃でポイントを取得する確率を高めていたと推察されます。
一方、2ndサービスが入った際のポイント取得率は、エース数によらず概ね一定でした。
まとめ
・1試合あたりのダブルフォルト数はキープ率にほとんど影響しませんでした。
・サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、1stサービスが入った際のポイント取得率が特に高いことが分かりました。
・1試合あたりのエース数が多い選手は、1stサービスが入った際にポイントを取得する確率が高いことが明らかになりました。
これらの結果から、近年のWTAランキングトップ100の選手では1stサービスでのポイント取得率が重要なため、ある程度のリスクを許容して強い1stサービスを打っていると推察されます。
強いサービスを打ってもエースを取れる確率は低いようですが、ラリーの主導権を握ることができると思われます。
今後大坂選手の試合を見る際には、そのような観点から1stサービスとその後のラリーを見てはいかがでしょうか??
おわりに
この研究はランキング100位以内のすべての選手の1試合あたりのスタッツをまとめて分析し、WTAランキングトップ100位以内の選手の全体的なサービスの傾向を明らかにしたものです。
よって、選手ごとやセット/ゲームごとのスタッツを分析すると、この研究とは異なるサービスの傾向が見られる可能性があります。
この研究で用いられている方法で、ご自身や担当する選手のサービスの傾向を明らかにするのはいかがでしょうか??
サービスの戦略を再構築する良いきっかけになるかも知れません。
参考資料
WTA トーナメントにおけるトップ100 位選手の2018 年サービスの傾向.村田宗紀.スポーツパフォーマンス研究, 10巻, 354-363ページ, 2018年