#55 心拍数でゴルフのスコアを伸ばす!

今回のタイトルのヒントとなる論文はこちら↓

Heart Rate Variability Biofeedback as a Strategy for Dealing with Competitive Anxiety: A Case Study.

今回の論文内容を簡単に説明すると、

”心拍変動と呼吸について理解し、Heart Rate Variability (HRV)  Biofeedback (BFB) トレーニングを実施することで、競技中の不安やストレスが軽減され、それが競技のパフォーマンスにも影響するのかどうか?を調べたケーススタディとなります。

*Heart Rate Variability(HRV)  Biofeedback (BFB) とは、かなりざっくりですが、自分の心拍変動を確認【モニターなどを確認】しながら、複式呼吸を実施したり、心拍変動と呼吸を合わせていくなどのトレーニング方法。【さらに詳しく知りたい方は、参考文献をご参考下さい。】

今回、この内容を調べようと考えた経緯として、#53 ゴルフは、手足が長いと有利?! の内容の中で、有酸素性能力とゴルフのスコアには相関があるという内容をご紹介させて頂いたのですが、”有酸素性能力が高い➾息があがりずらい➾パフォーマンスに心拍数が関係しているのでは?”という素朴な疑問から今回の論文に辿り着くこととなりました。

個人的に期待していたのは、有酸素性能力が高いことで疲れづらくショットが安定しパフォーマンスがあがるのでは?という点だったのですが、今回の内容は少し違う視点でとらえられていたので、みなさんも宜しければご参考下さい。

〇心拍変動と呼吸との関係を知る。

みなさんもご存じの通り、心拍変動には自律神経が関係しており、交感神経が優位になると心拍数は上がり、副交感神経が優位になると心拍数は下がります。心拍変動に影響を及ぼす要因としては、呼吸や感情、体や行動の変化などが挙げられます。また、心拍数は体の内部【神経、内分泌、免疫 etc】を正常且つ一定に保つための恒常性にも影響を及ぼします。

 

〇ケーススタディ内容

 対象:14歳/高校1年生のゴルフ選手【競技歴:7歳~】

    HRV BFBトレーニング前のスコア:平均スコア91【試合】平均スコア70【練習】

〇試合と練習とのスコアにギャップが、、

 本人曰く、競技中のストレスや不安をマネジメントすることが出来ず、パニックになることがある。体の反応としては、呼吸が浅くなる、心拍が速くなる、汗をかく。などが上げられる。これらが原因で、練習通りのスコアが試合で出せないと考えられる。

〇実際のトレーニング

10週間、HRV BFB トレーニングを実施。【合計10セッション, 45-60分/回】

➾1,4,7,10セッションは情報を記録【気分、不安、生理学的指標(ECG,呼吸)etc】/ 2,3,5,6,9 セッションは記録せず。セッション中の呼吸は深すぎないゆっくりとお腹を意識した呼吸を実践。その他にも、毎日20分”ストレスイレイザー”というディバイスを用いて呼吸練習を実施。毎週の試合のスコアを記録。その他にも、心理学的指標として、”The Profile of Mood States (POMS)”や “The Competitive State Anxiety Inventory (CSAI-2) “を用いて、怒り・混乱・落ち込み・疲れ・テンション・活力など6つの気分、自信や冷静さなどを数値化。

”ストレスイレイザー”イメージ写真

 

〇結果

試合時の平均スコアが91から75に向上【-15】

 

合計10セッションのトレーニング終了時には、落ち込みや疲れ等、気分的にマイナスとなるような数値が改善。自信を示す数値に関しては、4ポイント から 26ポイントへと大幅に向上【高校男子アスリートの平均24.5, SD = 5.52】 。

 

まとめ

日頃、無意識に行っている呼吸に意識を向けトレーニングを積むことで効率よくストレスを軽減でき、自信やパフォーマンス向上にも繋がる可能性があるのは面白い視点だと感じました。特に今回のように精神的に未成熟なジュニア選手に対しての取り組みは貴重な情報となる為、今後の指導にも活かしていこうと思います。

また、n=1【被験者】ではあったものの、今回の論文以外にも、HRV BFBトレーニングをおこなうことでレスリングの選手のリアクションタイムやリカバリー時間の短縮、野球のバッティングのパフォーマンスがあがったなどの報告があるようなので、今後も注視していこうと考えています。

P.S. 

タイガーウッズがガムを噛んでいるのは心拍数を落ち着かせる為かな?! 複式呼吸で、吐く息を長く&ガムを噛みながらプレーすると、、

ゴルフのスコアが伸びるかも?!!

Leah Lagos, Evgeny Vaschillo, Bronya Vaschillo, Paul Lehrer, Marsha Bates, and Robert Pandina. Heart Rate Variability Biofeedback as a Strategy for
Dealing with Competitive Anxiety: A Case Study. Applied Psychophysiology & Biofeedback. Volume 36, Issue 3, pp. 109–115, 2008.

Heart Rate Variability(HRV)  Biofeedback (BFB)トレーニング詳細⇩

Lehrer, Vaschillo, and Vaschillo. Resonant Frequency Biofeedback Training to Increase Cardiac Variability: Rationale and Manual for Training. Applied Psychophysiology and Biofeedback 25(3):177-91, 2000.

 

 

#53 ゴルフは、手足が長いと有利?!

今回のお題のヒントになる論文がこちら↓

“PHYSIOLOGICAL CORRELATES OF GOLF PERFORMANCE”

ざっくりと説明すると、生理学的指標とゴルフのパフォーマンスとの関係について調べた論文で、下記の項目がそれぞれの指標として用いられていました。

〇人体測定

➾年齢 体重 身長 BMI【Body mass index】 座高 手足の長さ

〇フィットネステスト

➾柔軟性 バランス パワー 筋力 筋持久力 有酸素性能力【推定】

〇ゴルフパフォーマンス

➾ドライバーのボールスピード&飛距離 5番アイアンのボールスピード&飛距離 スコア パーオン チップショット後のパターの平均距離 サンドショット後のパターの平均距離 パット数

対象:カナダのナショナルチームメンバー24名【男子15名女子9名】

 

手足が長いとゴルフは有利?! 結果は、

手が長いと飛距離アップという点では有利!!!

【足の長さはパフォーマンスとの関係に相関なし】

これに関しては、手が長い【レバーが長い】選手はスイングが大きくなる分、よりボールに力を与えることができます。勿論、長い手をコントロールする筋力が備わっていることも条件ではありますが。

しかしながら、スコア、サンドショット後のパターの平均距離、パット数など手の長さと負の相関があることから、より正確性が求められるショットにおいては手の長さがデメリットとなる可能性があることもわかりました。

座高に関しても、手の長さと同じ傾向がみられました。

また、筋力という点では腹筋と懸垂の方がパフォーマンスとの相関が高いという点も触れておく必要がありそうです。体前面においては腹筋、後面は背中、ゴルフ特有の回旋動作を考えるとパフォーマンスに影響することは勿論、これらの筋力のバランス【表と裏のバランス】をとることも障害予防の点から考えると非常に重要な要素だと考えられます。

その他にも、興味深いと感じたのが有酸素性能力とゴルフのパフォーマンスとの関係には相関があるということです。パワフルなショットを打つ為には筋力強化が必要ですが、有酸素運動は時に筋力強化の妨げとなることや、マラソンランナーのように持続的に力発揮を行うことがないことから、必要性を見いだせないというのが多くの方が意見ではないでしょうか。

可能性として、ゴルフの競技は1日で10km程度も移動することから、有酸素性能力の低い選手はリカバリー効率が悪く、気づかないうちにショットの精度が落ちているのかもしれません。いずれにせよ、有酸素性能力が高い選手が、ゴルフのパフォーマンスが高いという結果になったことを踏まえると、他の選手に比べ明らかにその能力が低い選手は持久力を高める為のトレーニングを取り入れる必要がありそうです。

まとめ

手の長さがパフォーマンスとの間に相関があると同時に、メリットとデメリットについてもゴルフ特有の飛距離&正確性という点から考えると収穫だったのではないでしょうか。今回の論文から、”心拍数とゴルフのパフォーマンスとの間に相関はあるのか?”というまたべつの疑問が浮かび上がってきたので実際に調べてみようと思います(^^♪。

 

参考文献

GREG D. WELLS, MARYAM ELMI, AND SCOTT THOMAS. PHYSIOLOGICAL CORRELATES OF GOLF PERFORMANCE. Journal of Strength and Conditioning Research. VOLUME 23, NUMBER 3, MAY 2009.