#66 からだを思い通りに動かす能力を育む vol.2

 発育期の子供は、特別なトレーニングの有無に関わらず、からだが大きくなり、運動能力が向上します(文献1)。また、特定のスポーツを定期的に行っている子供は、行っていない子供よりも運動能力が高い傾向にあります(文献2)。ですから、早期から特定の競技種目を始めて、練習をたくさん行えば、発育期に良い記録や競技成績を挙げられる可能性は高くなります。一方で、発育期に活躍したにも関わらず、高校生以降に記録や競技成績が伸び悩む選手、発育期の怪我が原因で、その後も怪我に苦しむ選手もいます。

子供のスポーツに関わる大人の多くは、子供が早期にスポーツをやめたり、怪我に苦しんだりすることを望んでいないでしょう。では、子供が生涯を通してスポーツに親しんだり、選手として長く活躍するには、発育期にどのような運動を行うべきでしょうか。第2回は、「からだを思い通りに動かす能力を育む」についてお伝えします。

 

からだを思い通りに動かす能力とは

「立幅跳びで全力の50%の距離になるように跳ぶ」という課題があったら、あなたはどのように跳びますか。例えば、からだを沈み込ませる速さ、腕の振り、脚への力の入れ方、跳び出す方向などを、意識的または無意識的に変化させるでしょう。このような課題を達成するには、目的に合わせてからだを思い通りに動かす能力が欠かせません。からだを思い通りに動かす能力には、「出力」、「時間」、「空間」の調整があります。

「出力」:正確性を必要とするアーチェリー、重りを持ち上げるウエイトリフティングのように、筋力やパワーの大きさなどを調整する能力

「時間」:音楽に合わせてからだを動かす新体操競技のように、リズム・テンポ・タイミングなどを調整する能力

「空間」:跳ぶ・捻る・回転する動作を伴う体操競技、向かってくるボールにバットを当てる野球競技のように、関節の方向や角度を調整する能力

 

からだを思い通りに動かす能力を育むべき理由

 からだを思い通りに動かす能力は、競技種目に関わらず、記録や競技成績に影響を与える要因の1つです。特に、対戦型の競技では、同じ相手、状況、動作でのプレーがほとんどありません。また、競技レベルが高くなれば、相手の動きは速く、緩急が大きく、複雑になります。ですから、子供の将来を優先した場合には、からだを思い通りに動かす能力を発育期から育むことが大切です。

記録の向上には、新しい技術の習得が欠かせません。そんな時に役立つのが、からだを思い通りに動かす能力です。例えば、運動学習の1つに模倣学習があります。模倣学習とは、他者の動きを観察した後に,同じ動作を繰り返して行う学習方法です。コーチが見本を見せたときに、それをすぐに真似できる人とそうでない人がいます。両者の違いには、人の動きを見る能力だけなく、「出力」、「時間」、「空間」を調整する能力が影響しています。いずれかの能力が欠けている場合には、必要な動作の反復、または特定の動作を取り出したドリルなどで欠けている能力を補った上で、新しい技術を習得しなければなりません。そうすると、新しい技の習得にも時間と手間が掛かります。一方で、からだを思い通りに動かす能力は、どのような競技を選択しても、または途中で競技転向しても、新しい技術の習得時に役立つので、発育期から育むことをお勧めします。

 

からだを思い通りに動かす能力を育む方法

 からだを思い通りに動かす能力を育む方法として、よく言われる「正解」に、「子供の主体的な自由遊びを通して、多様な運動遊び(運動の種類)を体験すること」が挙げられます。30年前はそれで良かったかもしれません。しかし、現在は、このような過去の「正解」のみでは、からだを思い通りに動かす能力を十分に育むことはできません。

理由は二つあります。まず、仲間、時間、空間の不足による自由遊びの消失です。地域にもよりますが、特に都心部における公園では、ボール遊びが禁止されています。また、受験のための塾通いによって自由遊びの時間は奪われ、上級生から下級生への「遊び方の伝承」が途絶えています。もう一つの理由は、子供は自分が好きなこと、興味があることは積極的に行いますが、苦手なこと、興味がないことには消極的であることです。自由遊びの消失と相まって、子供の主体的な自由遊びを通して体験できる運動の種類は偏っています。

このような背景を考慮すると、からだを思い通りに動かす能力を育むには、子供の主体的な自由遊びに加えて、大人の介入による遊び場(環境)や遊びの種類(機会)の確保が欠かせません。ですから、近年では子供の遊び場の創出に取り組む自治体等が増えています。また、スポーツ少年団の活動において、鬼ごっこなどの競技以外の遊びを取り入れるなど、多様な運動種目を経験できるように配慮している団体も増えてきました。

 

まとめ

 からだを思い通りに動かす能力である「出力」、「時間」、「空間」の調整は、各競技の記録や競技成績に影響を与えます。また、対戦相手に対応するとき、新たな技術を獲得するときにも欠かせない能力です。現在では、子供の主体的な自由遊びの減少に伴い、体験できる運動の種類が偏っているので、大人の介入による遊び場(環境)や遊びの種類(機会)の確保が欠かせません。

東京農業大学 応用生物科学部

准教授 勝亦陽一

 

  1. 勝亦陽一(2020)投球障害予防&治療プラクティカルガイド−メディカル・スキル・コンディショニングの架け橋に, メジカルビュー社, pp124-125.
  2. 勝亦陽一ほか(2008)野球選手における投球スピードと年齢との関係. スポーツ科学研究, 5, 224-234.

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