#68 THE 最大酸素摂取量ってなに!? vol.1

1、最大酸素摂取量(VO2max)の基本

 最大酸素摂取量(VO2max)はスポーツ現場でよく耳にする言葉ではありますが、深く理解されていない方も多いのでは。今回から数回に分けて皆さんに最大酸素摂取量(VO2max)の基本についてご紹介させて頂きます。

 最大酸素摂取量(VO2max【l/min】)は、1分間あたりにからだに取り込むことができる酸素の量(最大)のことを指し、通常は体重1kgあたりの摂取量(ml/min/kg)を用いることが一般的です(ただし、水泳競技は陸地の体重の影響はほとんどないため、絶対値l/minを用いることが多い)。我々は呼吸することで酸素を体内に取り込み、酸素を利用して糖や脂質を分解してエネルギーを作り出しています。このエネルギーは生命を維持するだけではなく、激しい運動や運動継続の為に使われています。言い換えると全身持久力の高い人ほど、最大酸素摂取量が高いといえます。

・健康と最大酸素摂取量(VO2max)

 厚生労働省では性・年代別の基準値が定められています。男性は18~39歳で39 ml/kg/min(以下単位省略)、40~59歳で35、60~69歳で32、女性は18~39歳で33、40~59歳で30、60~69歳で26となっています。これを見てみると、年齢に伴って最大酸素摂取量(VO2max)が少しずつ低下していることがわかります。原因は様々ですが、運動量の減少が大きな原因の一つであると考えられます。ちなみに、日本の50代のアマチュアランナーや登山家の中において、58ml/kg/minという値は珍しくありません。また、世界で著名な「Mayo Clinic Proceedings」に記載された論文によると、VO2maxは寿命を決める重量な要素であると指摘されています。簡単に説明すると、日常の良い運動習慣により、生活習慣病や他の疾患にかかるリスクが減り、若くして亡くなるリスクが低減することを意味します1)

・スポーツと最大酸素摂取量(VO2max)

 スポーツ選手の最大酸素摂取量(VO2max)向上のための研究は昔から盛んに行われています。例えば、陸上競技の800m〜、競泳の400m〜、ほか自転車競技、クロスカントリー、ボート競技など運動持続時間の長い競技種目のパフォーマンスはいずれも最大酸素摂取量(VO2max)との高い相関関係が報告されています。目安として、5分以上の競技種目のパフォーマンスのほとんどが最大酸素摂取量(VO2max)の値で決まると言えます。勿論、そこには例外もあります。例えば、日本選手権決勝に残るような一流競泳選手間の比較において、最大酸素摂取量(VO2max)の差はほとんどなく、パフォーマンスとの相関関係もありません。つまり、順位を決める要因として競技者の技術や、レース中のペース配分などが挙げられます2)。とはいえ、最大酸素摂取量(VO2max)を無視して良いというわけではありません。なぜなら、VO2maxが低下することで、パフォーマンスが低下するということに変わりはないからです。

参考値

⇨陸上競技 長距離 シニア 最大値 71.7ml/kg/min   U19 最大値 86ml/kg/min         

⇨トライアスロン シニア 最大値 75.8ml/kg/min

⇨自転車競技 ロードレース 最大値 72.1ml/kg/min

⇨バドミントン シニア 最大値 62ml/kg/min

⇨バスケットボール シニア 最大値 59.1ml/kg/min

独立行政法人日本スポーツ振興センター (2020年)「フィットネスチェックハンドブック」より引用

 

・まとめと今後

 最大酸素摂取量は健康やパフォーマンスに関わる重要な能力です。能力を維持、または向上させるためには、日常生活での正しい運動習慣の継続や、スポーツ現場におけるトレーニングは必要不可欠なものとなります。

今後は、最大酸素摂取量(VO2max)と下記との関連について話題を提供していく予定です。

  • 最大酸素摂取量(VO2max)の限定要因
  • 最大酸素摂取量(VO2max)を向上させるためのトレーニング方法
  • 最大酸素摂取量(VO2max)の測定方法
  • 最大酸素摂取量(VO2max)とドーピング
  • 最大酸素摂取量(VO2max)と低酸素環境
 
参考文献
 
1) JA Laukkanen, SK Kunutsor, T Yates, P Willeit, U M Kujala, H Khan, F Zaccardi. Prognostic Relevance of Cardiorespiratory Fitness as Assessed by Submaximal Exercise Testing for All-Cause Mortality: A UK Biobank Prospective Study. Mayo Clin Proc. May;95(5):867-878, 2020.
2) 黄忠,黒部一道,西脇雅人,小澤源太郎,田中孝夫,山本正嘉,荻田太.一流競泳選手における泳パフォーマンスの限定要因に関する検討.日本トレーニング科学 VOL 23. (3): 263-274. 2011.

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