#70 最大酸素摂取量の限定要因-最大酸素摂取量は何で変わる?其の二 酸素摂取量と筋肉

前回では、最大酸素摂取量と循環機能の関連性、特に肺機能や心機能の重要性について述べました。今回は筋肉(活動筋)と最大酸素摂取量について考えていきましょう。

  • 筋量

 クロスカントリースキーや、ランニングといった腕の働きを含む競技種目の最大酸素摂取量は主に下半身に依存する種目(自転車 etc)に比べてより高い値が観察されています。これは動員された筋量が多ければ多いほど最大酸素摂取量が高くなることが原因と考えられます。つまり、最大酸素摂取量を向上させたい場合、なるべく多くの筋量を動員しながらトレーニングを実施したほうが効果的であるといえます。しかし、ここでの筋量はボディビルダーのような筋量ではなく、長距離選手に特有な遅筋線維(短距離選手は速筋線維)が多く含まれるのが有利とのことです。もちろん、最大酸素摂取量の上限も存在しており、個人の能力を伸ばすには現状のコンディションを把握したうえ、新たな刺激(運動強度や量、頻度の変化)を与えることで理想なトレーニング効果が得られるでしょう。我々がよく使用しているプロトコールについては別の機会で紹介します。

  • 筋内の毛細血管

 運動による「消費」(酸素の消費)に対して、「供給」は欠かせません。血液から多くの酸素を活動筋に届けるには毛細血管の数や密度といった酸素運搬能力が重要となっています。これらの裏付けとして最大酸素摂取量と筋線維1本あたりの毛細血管の数との間に相関関係が示された有名な研究があります。つまり、活動している筋肉には供給パイプ(付着している毛細血管)が多いほど酸素拡散が高く、結果的に酸素運搬能力が高いということになります。健康の領域においても、継続的に運動を続くと毛細血管が増えと同時に血液の流れによって動脈血管の弾性が高まり、結果的に動脈血管や心臓にかかる圧力が減ることで「高血圧」の改善につながります(ただし安全かつ詳細の運動処方が必要)。

  • その他

 そのほかにも最大酸素摂取量に関わる限定要因はまだ数多く存在しています。例えば、遺伝的ホルモン調整筋肉内の酵素活性環境的な要因などが挙げられます。しかし、これからの要因はトレーニング現場ではなかなかコントロールできない要因であり、ここでは割愛させていただきます。とにかく、最大酸素摂取量の限定要因に関する研究は世界中にいまだ行われているため、また新たな知見が報告されたら皆さんに紹介します。

 

  • 最大酸素摂取量を向上させるためのトレーニング(前置き)

 さて、ここまでくると現場の指導者や選手たちには非常に興味を引く情報になるかと思います。トレーニング条件としては、強度、量、頻度が非常に重要で、その中でも「運動強度」が最も重要であります。当然、最大酸素摂取量は個人差があるため、単に数人集まって同じ運動強度でトレーニングすれば持久力が永遠に伸びるという簡単な話しではありません。やはり、個人差を見極めるためには、何かしらの方法で最大酸素摂取量を定量し、それに基づいた正しい運動強度を算出することがおすすめです。最大酸素摂取量の測定方法や推定方法も多く存在しているため、別の機会にご紹介したいと思います。トレーニングの話に戻ると、これまで持久力トレーニングというと、低強度で長時間すればなんとかなるという考える方も少なくありません。近年では高強度のインターバルトレーニングが流行っており、やり方も様々です。運動強度は?、運動時間は?、休憩時間は?それに、シーズン前とシーズン後にはそれぞれ何をやればいいのか、トレーニング頻度や期間はどうすればいいかというような疑問がたくさんあると思います。ここで明言することが難しいですが、ブログで少しずつ情報を整理していこうと思います。

 

まとめ

 活動筋は最も酸素を消費する場所で、多くの筋量とそれに付着している多くの毛細血管が最大酸素摂取量を決める重要な要因となります。

 次回は最大酸素摂取量の実測と推定方法について紹介します。

 

追伸:

2022年4月からスポーツおきなわでは最大酸素摂取量が実測できるようになりました!測定する際の運動様式はランニングと自転車で選択できます。詳細プロトコールは選手の体力レベルに合わせて設定いたし、データのフィードバックで次のトレーニングプランも提案できます。詳細はホームページやメールにてお問い合わせできます。

コンディションチェック (CONDITION CHECK)

contact@sports-okinawa.org

著者プロフィール

黄忠(コウチュウ)
・鹿屋体育大学博士後期課程満期
・2012-2017年国立スポーツ科学センター研究員
・2013-2017年日本大学非常勤講師
・2017年〜現在 日本オリンピック委員会強化スタッフ(コーチングスタッフ)

所属学会
・日本体力医学会
・日本トレーニング科学会
・日本水泳水中運動学会
・日本運動生理学会
・EUROPEAN COLLEGE OF SPORTS SCIENCE

#69 最大酸素摂取量の限定要因-最大酸素摂取量は何で変わる?其の一、循環

最大酸素摂取量の仕組み(限定要因etc)は非常に重要なテーマとして従来から多く発表されています。最大酸素摂取量の限定要因の理解は単に興味を満たすものだけではなく、重点を理解してトレーニングを実施することは、最大酸素摂取量の上限を効果的に引き上げることにも繋がります。要因の背景や因子の種類は様々で、これらの因子をすべて理解するには莫大な時間を要するため、ここでは重要ポイントに絞って紹介していきます。

・最大酸素摂取量の外的因子と内的因子

外的因子とは「体外環境」を指します。つまり、高酸素なのか低酸素(高地)なのか、そして気温や湿度が高いか低いかなどの環境条件が挙げられます。ほかには、日常のトレーニングやディトレーニングの状況、また運動様式や時間、強度、ドーピングや薬物などの人意的条件も含まれます。一方、内的因子とは、主に体内の「酸素運搬機構」によるものです。肺の換気能や拡散能、血液の循環機能、組織の拡散機能、そして筋肉の酸素消費機が含まれています。今回は、内的因子を中心に紹介します。

・肺の換気能と拡散能

 難しい言葉に聞こえますが、簡単に言うと換気能は肺の全容積や肺活量を指します。すなわち、1回の換気量が多ければ多いほど、肺に吸い込まれる酸素の量が多くなります。拡散能とは呼吸で吸い込んだ酸素が肺胞を介して毛細血管に拡散(酸素と二酸化炭素の交換)される能力を指します。構造上は、肺胞の数や密度、そこに分布する毛細血管が多いほどより多くのガス交換(酸素の取込と二酸化炭素の排出)が可能となります。実際高強度運動時には血流が増え、肺胞の毛細血管内における赤血球の通過時間は短くなり、肺から酸素が十分取り込まれないことで血中酸素飽和度(動脈血中の酸素量)は低下します。このような状況と逆に、最大酸素摂取量を増大させる手法として高酸素を吸引する人工的な環境変化を作ることもあります。

・酸素運搬

血流量は酸素を筋肉まで運ぶのに大きな影響を及ぼし、その点を踏まえると運動中の最大心拍出量が最大酸素摂取量を決定する重要な因子の一つであると言えます。赤血球(酸素運搬役)を含んだ血液が全身に送られ、筋内でエネルギーを作り出すことで運動を維持することができます。昔から「スポーツ心臓」という言葉をよく耳にしますが、長距離選手の心臓は心臓の壁部が薄く、弾性も高く、かつ容積(心室の容積)が大きいため、より多くの血液を吐き出すことができます。持久力の向上には体が運動刺激に適応するまで莫大な時間がかかるため、ジュニア期における持久力強化の重要性についての理解が必要不可欠となります。また、持久系競技においてはドーピングによって最大酸素摂取量を向上させる事例もあり、その典型例の一つにEPO(エリスロポエチン:ホルモン調整による造血)の造血機能を利用した最大酸素摂取量向上の有効性が報告されています。

 一方、骨格筋の末梢循環では、片脚トレーニングにおいて、トレーニング側の脚で23%の最大酸素摂取量の増大があったと同時に非トレーニング脚でも7%の増加が報告されています1)。非トレーニング脚の最大酸素摂取量増加に関しては、毛細血管密度や酸化酵素活性など、酸素の運搬経路が増えることに起因していると考えられます。角度を変えて、現場での応用を考えると、仮に脚の怪我でトレーニングを休止しても、健側の脚や上肢のトレーニング刺激を追加することで最大酸素摂取量の低下を阻止できる可能性が考えられます。

 少し本題からはズレますが、普段の生活面においても、アスリートに限らず、最大酸素摂取量が高いほど「長寿」という説もあり、それは日常の身体活動によって生活習慣病や心血管疾患のリスクが減り、健康寿命が伸びることに関連しています2)。一方、最大酸素摂取量を低下させる要因の一つに「タバコ」が挙げられます。なぜなら、タバコにより発生した一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンと結合しやすく(結合性は酸素より200倍も高く、運搬系の赤血球の酵素の席がタバコの一酸化炭素に簡単に奪われる)、一旦乗ったら(一酸化炭素)簡単に切り離すことができません。それらを踏まえると、日常で苦しいトレーニングをしても結局「車のアクセルとブレーキーを同時踏む」という皮肉な結末に繋がります。もちろん、受動喫煙も同じのようなことで、指導者や家族、周りの方々もタバコのリスクに関してはしっかりと理解しておく必要があるでしょう

 

本話のまとめ

 換気能、拡散能(酸素を毛細血管に拡散できる能力)、高い心拍出量と血流量は最大酸素摂取量の限定要因に欠かせない重要な因子であると考えられます。そして、タバコは誰にとっても「百害あって一利なし」なものかもしれません。

次話:最大酸素摂取量の限定要因〜其の二、最大酸素摂取量と活動筋

参考文献:

1, Saltin B., et al. The nature of the training response peripheral and central adaptation to one-legged exercise. Acta Physiol. Scand., 96:289-305, 1976.

2, Laukkanen J. A., et al. Prognostic relevance of cardiorespiratory fitness as assessed by submaximal exercise testing for all-cause mortality: A UK biobank prospective study. Mayo Clin. Proc. May;95(5): 867-878, 2020.

#68 THE 最大酸素摂取量ってなに!? vol.1

1、最大酸素摂取量(VO2max)の基本

 最大酸素摂取量(VO2max)はスポーツ現場でよく耳にする言葉ではありますが、深く理解されていない方も多いのでは。今回から数回に分けて皆さんに最大酸素摂取量(VO2max)の基本についてご紹介させて頂きます。

 最大酸素摂取量(VO2max【l/min】)は、1分間あたりにからだに取り込むことができる酸素の量(最大)のことを指し、通常は体重1kgあたりの摂取量(ml/min/kg)を用いることが一般的です(ただし、水泳競技は陸地の体重の影響はほとんどないため、絶対値l/minを用いることが多い)。我々は呼吸することで酸素を体内に取り込み、酸素を利用して糖や脂質を分解してエネルギーを作り出しています。このエネルギーは生命を維持するだけではなく、激しい運動や運動継続の為に使われています。言い換えると全身持久力の高い人ほど、最大酸素摂取量が高いといえます。

・健康と最大酸素摂取量(VO2max)

 厚生労働省では性・年代別の基準値が定められています。男性は18~39歳で39 ml/kg/min(以下単位省略)、40~59歳で35、60~69歳で32、女性は18~39歳で33、40~59歳で30、60~69歳で26となっています。これを見てみると、年齢に伴って最大酸素摂取量(VO2max)が少しずつ低下していることがわかります。原因は様々ですが、運動量の減少が大きな原因の一つであると考えられます。ちなみに、日本の50代のアマチュアランナーや登山家の中において、58ml/kg/minという値は珍しくありません。また、世界で著名な「Mayo Clinic Proceedings」に記載された論文によると、VO2maxは寿命を決める重量な要素であると指摘されています。簡単に説明すると、日常の良い運動習慣により、生活習慣病や他の疾患にかかるリスクが減り、若くして亡くなるリスクが低減することを意味します1)

・スポーツと最大酸素摂取量(VO2max)

 スポーツ選手の最大酸素摂取量(VO2max)向上のための研究は昔から盛んに行われています。例えば、陸上競技の800m〜、競泳の400m〜、ほか自転車競技、クロスカントリー、ボート競技など運動持続時間の長い競技種目のパフォーマンスはいずれも最大酸素摂取量(VO2max)との高い相関関係が報告されています。目安として、5分以上の競技種目のパフォーマンスのほとんどが最大酸素摂取量(VO2max)の値で決まると言えます。勿論、そこには例外もあります。例えば、日本選手権決勝に残るような一流競泳選手間の比較において、最大酸素摂取量(VO2max)の差はほとんどなく、パフォーマンスとの相関関係もありません。つまり、順位を決める要因として競技者の技術や、レース中のペース配分などが挙げられます2)。とはいえ、最大酸素摂取量(VO2max)を無視して良いというわけではありません。なぜなら、VO2maxが低下することで、パフォーマンスが低下するということに変わりはないからです。

参考値

⇨陸上競技 長距離 シニア 最大値 71.7ml/kg/min   U19 最大値 86ml/kg/min         

⇨トライアスロン シニア 最大値 75.8ml/kg/min

⇨自転車競技 ロードレース 最大値 72.1ml/kg/min

⇨バドミントン シニア 最大値 62ml/kg/min

⇨バスケットボール シニア 最大値 59.1ml/kg/min

独立行政法人日本スポーツ振興センター (2020年)「フィットネスチェックハンドブック」より引用

 

・まとめと今後

 最大酸素摂取量は健康やパフォーマンスに関わる重要な能力です。能力を維持、または向上させるためには、日常生活での正しい運動習慣の継続や、スポーツ現場におけるトレーニングは必要不可欠なものとなります。

今後は、最大酸素摂取量(VO2max)と下記との関連について話題を提供していく予定です。

  • 最大酸素摂取量(VO2max)の限定要因
  • 最大酸素摂取量(VO2max)を向上させるためのトレーニング方法
  • 最大酸素摂取量(VO2max)の測定方法
  • 最大酸素摂取量(VO2max)とドーピング
  • 最大酸素摂取量(VO2max)と低酸素環境
 
参考文献
 
1) JA Laukkanen, SK Kunutsor, T Yates, P Willeit, U M Kujala, H Khan, F Zaccardi. Prognostic Relevance of Cardiorespiratory Fitness as Assessed by Submaximal Exercise Testing for All-Cause Mortality: A UK Biobank Prospective Study. Mayo Clin Proc. May;95(5):867-878, 2020.
2) 黄忠,黒部一道,西脇雅人,小澤源太郎,田中孝夫,山本正嘉,荻田太.一流競泳選手における泳パフォーマンスの限定要因に関する検討.日本トレーニング科学 VOL 23. (3): 263-274. 2011.

#67発育期に体験・獲得すべき動き vol.3

体験・獲得すべき「動き」の分類

 発育期の中でも,特に学童期前半(小学1-3年生)までは、専門競技をやっているかどうかに関わらず,子供に多様な動きを経験させることをお勧めします。過去の資料(文献3)などを参考に,からだの機能を基準に幼少期に獲得すべき動きを3つに分類し,それぞれに関連する競技種目を示したのが表1です(文献4)。動きは、「からだのバランスをとる動き」、「からだを移動させる動き」、「からだや道具を操作する動き」に分類されます。これに、からだを思い通りに動かす能力である「出力」、「時間」、「空間」の調整を関連させて各動きの特徴を整理すると次のようになります。

 

簡単なようで難しい「からだのバランスをとる動き」

 「からだのバランスをとる動き」は、「立つ」、「座る」などの日常的な動きと、「乗る」、「回る」、「転がる」などの非日常的な動きに分かれます。姿勢を変化・維持する動きであり、特に「出力」の調整を必要とします。また、生まれてから早い段階で動きの獲得が可能なので、単純で簡単な動きのように思われるかもしれません。

一方で、「からだのバランスをとる動き」の良し悪しは、からだの移動や、からだ・道具の操作といった他の動きに影響を与えます。例えば、片脚立ちのバランスが投球動作に影響すること(文献5)、立位時の屈曲した姿勢が首、背中や腰の痛みに関連があること(文献6)が分かっています。トップアスリートが、立位でのバランストレーニングや体幹トレーニングなどを行うのは、「からだのバランスをとる動き」が怪我の予防や競技力の維持・向上に欠かせないと考えられているからです。

「からだのバランスをとる動き」は、本来であれば、「だるまさんが転んだ」などの遊びの中に「からだのバランスをとる動き」を入れることで、楽しく動きを学習することが理想です。もし、そういった機会が少ないようであれば、片脚立ちや手足をついた状態でからだのバランスをとる動きを行うとよいでしょう。

 

多くの競技種目で必要とされる「からだを移動させる動き」

「からだを移動させる動き」は、「走る」、「跳ぶ」などの日常的な動きと、「泳ぐ」、「すべる」、「登る」などの非日常的な動きに分かれます。これらは、地面や水などに力を加えて、からだを加速・減速させたり、地面に大きな力を加えて跳んだりする動きであり、特に「出力」と「時間」の調整を必要とします。

「走る」、「跳ぶ」などの日常的な動きは、数多くの競技種目において、競技力に大きく影響します。その能力が競技成績に直結する陸上競技の短距離や跳躍だけでなく、球技や格闘技などの競技種目においても、移動のスピード、跳躍力が不足しているために、トップレベルでの活躍が難しい選手もいます。逆に、突出している移動スピードを武器に活躍している選手もいます。

「からだのバランスをとる動き」と同様に、「歩く」「走る」といった移動を伴う日常的な動きは、誰にでも可能な動きです。一方で、それを突き詰めている一流陸上競技選手の動きをみると、私たちの動きとは全く異なることが分かります。発育期には、ある程度の走る量も大切ですが、将来を優先するのであれば、技術などの動きの質を高めていくことが必要です。例えば、走るのが上手な子供を真似して走ってみたり、スマホなどのカメラで動きを撮影して、自分の動きとトップアスリートの動きを比較して「どうやったら速く走れるのだろう」と考えてみるのもよいでしょう。

 

経験の量が欠かせない「からだや道具を操作する動き」

「からだや道具を操作する動き」は、「持つ」などの一部の動きを除いて、ほとんどが非日常的な動きです。さらに細かく分類すると、「よける」、「逃げる」などのからだを操作する動き、「投げる」、「運ぶ」などの手で掴んでいるモノや人を操作する動き、「蹴る」、「打つ」などのモノや人に力を加える動きの3つに分類されます

これらの動きは、いずれも「出力」、「時間」、「空間」の調整を必要とします。また、非日常的な動きは、日常的な動きとは異なり、体験しなければ動きを獲得することができません。さらに、特別な場所や相手が必要であり、子供の主体的な遊びでは発生しない動きが多いです。従って、これらの動きの体験量を確保するには、大人が意図的に環境や機会を作る必要があります。

逆に言えば、非日常的な動きが多い競技では、特に体験の量が発育期の競技成績に直接的に関係します。ですから、発育期によい記録や競技成績を挙げるためには、特定の動きの体験の量を増やすことが最も簡単な方法です。一方で、動きが未熟であり、普段行っていない動きですから、体験の量を急に増やしたり、未熟な子供のからだでは耐えられない強度の運動を行ったりすると、怪我の危険性が高まります。子供は自分の好きなことや楽しいことを繰り返し行いますから、大人は子供の体験の量を調整して、怪我の予防に努める役割を担う必要があります。

 

まとめ

幼少期に獲得すべき動きには、「からだのバランスをとる動き」、「からだを移動させる動き」、「からだや道具を操作する動き」があります。それぞれの動きは関連し合っていますし、ジャンピングスローのように、動きを組み合わせる場合もあります。非日常的な動きは、特に体験の量が記録や競技成績に影響しますが、一方で、特定の動きを繰り返し行うことで怪我の危険性は高まります。ですから、発育期の中でも,特に学童期前半(小学1-3年生)までは、専門競技をやっているかどうかに関わらず、多様な動き経験しながら思い通りにからだを動かす能力を育成することをお勧めします。

  1. 勝亦陽一(2020)投球障害予防&治療プラクティカルガイド−メディカル・スキル・コンディショニングの架け橋に, メジカルビュー社, pp124-125.
  2. 勝亦陽一ほか(2008)野球選手における投球スピードと年齢との関係. スポーツ科学研究, 5, 224-234.
  3. 中村和彦(2011) 運動神経がよくなる本-「バランス」「移動」「操作」で身体は変わる!, マキノ出版, pp51-130.
  4. 勝亦陽一(2020)投球障害 予防&治療プラクティカルガイド−メディカル・スキル・コンディショニングの架け橋に, メジカルビュー社, pp136-137.
  5. Karl E (2017) Youth Baseball Pitching Stride Length: Normal Values and Correlation With Field Testing, Sports Health, 9(3): 205–209.
  6. Murphy S ほか (2004) Classroom posture and self-reported back and neck pain in schoolchildren, Appl Ergon, 35, 113-120.