#64 思春期に起こる心理的問題

 今回は、思春期に起こりやすい心理的問題について紹介します。“心理的問題”という言葉から、治療が必要な病気の問題が想像されるかもしれません。しかし、今回はそういった問題ではなく、競技現場でしばしば“問題”とされる事柄について取り上げ、心理的側面から解説します。

・心理的問題の考え方

次のような選手達は、指導者の目にはどのように映るでしょうか。

「選手Aは、ちょっとしたミスを気にして、いつも硬い表情で練習している。完璧を求めすぎて神経質になっているように見える。“あまり考えすぎるな”と声を掛けると、泣いてしまうので困っている。」

「選手B の怪我は回復していて、主治医からも競技復帰のOKをもらっている。しかし、本人はずっと痛みや違和感を訴えている。念の為、再検査をしたが、やはり主治医からは“怪我は完治している”と言われ、無理にでも練習をさせるべきか悩んでいる。」

「選手Cは、サボるわけではないが、積極的に練習しようとしないと言うか、勝ちたいという強い気持ちが感じられない。身体能力が高いので、努力すれば日本代表として戦える選手になれる可能性は十分にあるだけに、もどかしい。」

競技現場において選手A、B、Cのようなアスリートは、“問題を抱えているアスリート”と言えるでしょう。こういったアスリートに対し、周囲の大人は解決策や対処法を考える前に「なぜ、このような“問題”が生じているのか」という視点で関わることが大切です。

 アスリートに限らず、子どもは心に問題を抱えた時、それが身体の症状や普段と違う行動となって現れやすいと言われています。山登(2011)を参考に、心理的問題が背景にあると考えられる症状を表1に示しました。

表1

大人であれば、自分自身の心身の状態を把握することや、言葉を使って、自分の経験や感情を整理し、それを周囲に説明することができます。しかし、発達途中の子どもは、大人のように言葉を使うことが上手ではありません。言葉で把握したり、伝えたりできないぶん、心に問題を抱えた時「涙」「身体の痛み」「練習に身が入らない」といった、身体の症状や行動で問題が表現されやすいのです。

 

・心理的問題が成長の契機(きっかけ)になる

 子どもが、言葉を使って、自分の経験や感情を整理し、それを周囲に説明することができるようになるためには、身近に優れた聞き手が必要であると言われています(岩宮,2009)。優れているというのは、カウンセリングの技術や知識を有するといった意味ではなく、なんとか自分の気持ちを表現しようとする子どもの言葉を、理解しようという姿勢を持って聞いてくれることです。この時無理に悩みを聞き出そうとする必要はなく「話したい時はいつでも話を聞くよ。」と言うスタンスを大切にしてください。また、話を聞く際も、良いアドバイスをしなければ、と構える必要はありません。「そうか。そうなんだね。」と聞いてくれるだけでも、子どもは自分自身の気持ちと向き合うことができます。このような体験を通じて、自己理解やコミュニケーション能力が育っていきます。

 中込(2015)は、あるカウンセラーの表現を引用し、心理相談室に来談したアスリートが心理的問題に向き合うことの意味を“4C”で説明しています。「競技生活の中で何らかの悩みを抱えたことが来談行動となり、それは心理的危機(Crisis)にあると言える。悩みの多くは、それまでのようなやり方、考え方ではこれからはやっていけないと、何らかの変化を迫られている状況との見方ができる。良い方向に変化(Change)させるために相談は好機(Chance)となり、それに挑戦(Challenge)することが今必要とされているのではないか(以後省略)。」思春期年代のアスリートを支える周囲の大人は、彼らが心理的問題を抱えないように働きかけるのではなく、心理的問題が成長の契機となるように関わることが重要であると言えます。

 次回のブログでは、思春期年代のアスリートのストレスについて紹介する予定です。

 

参考文献

  • 山登敬之(2011)どこまで健康?どこから病気?.山登敬之・斉藤環(編),こころの科学 入門 子どもの精神疾患−悩みと病気の境界線.日本評論社:東京,2-7.
  • 岩宮恵子(2009)フツーの子の思春期−心理療法の現場から.岩波書店:東京.
  • 中込四郎(2015)アスリートがカウンセリングルームを訪れるとき.中込四郎・鈴木壯(編著),スポーツカウンセリングの現場から−アスリートがカウンセリングを受けるとき.道和書院:東京,18-32.

 

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