今月から映画ドラえもんシリーズ「のび太の月面探査記」が公開されています。
ドラえもんに欠かせないのは、「こんなこといいな、できたらいいな~♪」を叶えてくれる未来の“ひみつ道具”ですよね。
今回はトレーニングの「こんなこといいな、できたらいいな~♪」を叶えてくれる超音波エラストグラフィという“ひみつ道具”をご紹介したいと思います。
超音波エラストグラフィは、
ストレッチ中に狙った筋が伸びてるか知りたいな~♪
トレーニング動作中に狙った筋が活動してるか知りたいな~♪
そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。
ストレッチ中に狙った筋が伸びてるか知りたいな~♪
リラックスした状態の筋は伸ばされると硬くなります。
よって、ストレッチによって筋が硬くなっていれば、その筋が伸びていることになります。
超音波エラストグラフィは組織の弾性(硬さ)を観測する画像診断技術です。
産婦人科で使用するような超音波診断装置に内蔵され、皮膚上にプローブを置くだけで筋の硬さを観測することができます。
下の図は足関節を底屈位から背屈位へと動かしたときに、腓腹筋内側頭の超音波画像を取得したものです。
足関節の背屈に伴って筋が伸びていることがBモード画像から、筋が硬くなっていることがエラストグラフィ画像から分かります。
以下の図は足関節を背屈位で固定し、腓腹筋内側頭の硬さがどのように変化するかを超音波エラストグラフィで調べたものです。
腓腹筋内側頭は100秒までどんどん軟らかくなり、それ以降も緩やかに軟らかくなっていることが分かります。
このことから、ストレッチで筋を伸ばした状態を維持すると、筋が徐々に伸びやすくなってストレッチ感が軽減することが示されました。
超音波エラストグラフィを用いて棘上筋が伸びやすいストッレチポジションを検討した結果が下記の図です。
棘上筋がより硬くなる、すなわち棘上筋がより伸ばされるのは、
・肩関節挙上45°、肩関節最大水平外転、肘関節90°(Ele45HAb)
・肩関節挙上90°、肩関節最大水平外転、肘関節90°(Ele90HAb)
・肩関節最大伸展、肩関節最大内転、肘関節90°(Ext)
で肩関節を最大内旋させたときであることが分かりました。
このように、超音波エラストグラフィは、
・ストレッチ中に狙った筋が伸びてるかを知りたい。
・どのくらいのストレッチ時間が必要かを知りたい。
・効果的なストレッチポジションを知りたい。
そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。
トレーニング動作中に狙った筋が活動してるか知りたいな~♪
筋は活動して力を発揮すると硬くなります。
よって、トレーニング動作中に筋が硬くなっていれば、その筋が活動して力を発揮していることになります。
下の図は安静状態および全力の45%の肘関節屈曲筋力(45%MVC)を発揮したときに取得した上腕二頭筋の超音波エラストグラフィ画像です。
安静状態に比べて屈曲筋力を発揮した時の方が上腕二頭筋が硬くなっているのが分かります。
15, 30, 45, 60%の筋力を発揮させたときの上腕二頭筋の硬さを測定すると下記のようになります。
上腕二頭筋は肘関節屈曲筋力の増加に伴って硬くなったことから、肘関節を屈曲させる際に活動して力を発揮する筋であることが確認できました。
超音波エラストグラフィを用いて、腹横筋が様々なトレーニング動作中にどの程度活動しているかを調べたものが下記の図です。
安静時に比べてトレーニング動作中の方が腹横筋は硬くなりましたが、特にブレーシング(2)やデッドリフト(3)の際に硬くなっていました。
このことから、腹横筋はブレーシングやデッドリフトの際に特に大きく活動し、力を発揮することが示されました。
以上のように、超音波エラストグラフィは、
・トレーニング動作中に狙った筋が活動しているかを知りたい。
・鍛えたい筋がどのトレーニング動作で大きく活動するかを知りたい。
そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。
おわりに
現段階では超音波エラストグラフィをスポーツ現場で見かけることはないと思われます。
しかし、医療や研究の分野では超音波エラストグラフィの普及が進んでおり、それに伴って観測技術も進化しています。
たったらたった たーったたー♪ 超音波エラストグラフィ―!!
筋の硬さを観測できる“ひみつ道具”として超音波エラストグラフィがスポーツ現場に登場する未来がそう遠くないと期待しています。
参考資料
・Chino K, Takahashi H. Association of Gastrocnemius Muscle Stiffness With Passive Ankle Joint Stiffness and Sex-Related Difference in the Joint Stiffness. J Appl Biomech. 2018; 34: 169-174.
・Freitas SR, Andrade RJ, Larcoupaille L, Mil-homens P, Nordez A. Muscle and joint responses during and after static stretching performed at different intensities. Eur J Appl Physiol. 2015; 115: 1263-1272.
・Nishishita S, Hasegawa S, Nakamura M, Umegaki H, Kobayashi T, Ichihashi N. Effective stretching position for the supraspinatus muscle evaluated by shear wave elastography in vivo. J Shoulder Elbow Surg. 2018; 27: 2242-2248.
・Yoshitake Y, Takai Y, Kanehisa H, Shinohara M. Muscle shear modulus measured with ultrasound shear-wave elastography across a wide range of contraction intensity. Muscle Nerve. 2014; 50: 103-113.
・Hirayama K, Akagi R, Moniwa Y, Okada J, Takahashi H. TRANSVERSUS ABDOMINIS ELASTICITY DURING VARIOUS EXERCISES: A SHEAR WAVE ULTRASOUND ELASTOGRAPHY STUDY. Int J Sports Phys Ther. 2017; 12: 601-606.