#52 重たいボールでトレーニングをしたら、球速はアップするが、ケガのリスクも増える?!

今回ご紹介する文献はこちら↓            

“Effect of a 6-Week Weighted Baseball Throwing Program on Pitch Velocity, Pitching Arm Biomechanics, Passive Range of Motion, and Injury Rates” 

簡単に説明すると、”通常より重たいボールを用いて6週間ピッチング練習を行うと球速、ピッチング時の腕のバイオメカニクス、可動域、ケガのリスクにどのような影響を及ぼすのか?”という内容です。

結論は、、

何名かの選手にとっては、球速があがるという点では効果があるかもしれないが、それと同時にケガのリスクも増える可能性がある。また、球速が上がった理由として肩の受動的外旋可動域の動きが関係している可能性がある。

〇背景

 ここ最近のメジャーリーグ平均球速が、2008年に90.9マイルだったのが、2017年には93.2マイルにまであがってきており、アマチュア野球においても同じような傾向【球速アップ】がみられる。インターネット上での”投手向け球速向上プログラム(投球動作、腕の筋力&スピードを向上させることで5マイル、もしくはそれ以上の球速アップを目指す)”などのマーケット拡大も大きく影響していると考えられる。いくつかの研究においても、重たいボールを用いたトレーニングプログラムが球速アップに効果があると示している。

球速アップと関連して、肘のストレスやケガの割合が増えることが示唆されており、近年はプロアマ問わず、尺骨側副靭帯の再建手術の数が増えてきているのが現状である。【ニューヨーク州においては、2002年から2011年にかけてユースの野球選手における尺骨側副靭帯再建手術の件数が193%に膨れ上がってきている】しかしながら、球速アッププログラムがケガに及ぼす影響について直接調べた報告は少ない。

〇実験方法

対象:38名【13歳~18歳】/過去12カ月以内にケガがなし。

コントロール群/19名【通常練習】、トレーニング群/19名【重たいボールを用いた練習】

測定項目:*他動的可動域(肩/ 肘)*筋力(肩) *球速(通常5オンスボールを使用)*投球動作(肘の内反トルク&肩内旋速度)

時期 & 頻度:オフシーズン【1~2月中の6週間】。 トレーニング頻度・週3日

トレーニング内容

両群ともオフシーズンの通常ストレングス&コンディショニングトレーニングは実施。

トレーニング群は、週3回、下記のトレーニングを実施。【*各トレーニングポジションで5つの異なるウエイトボール➾2,4,6,16,32オンスを使用。】

〇結果

*38名中トレーニング群の4人が離脱【2人が肘、残りの2人下肢のケガ】

*トレーニング群【80% ➾球速アップ / 8%➾変化なし / 12%➾球速ダウン】。

*コントロール群 【67%➾球速アップ / 19%➾変化なし / 14%➾球速ダウン】

*トレーニング介入後の腕の角速度と肘のストレスに対しては変化なし。

*コントロール群 【13%➾利き手の外旋動作の筋力向上。トレーニング群は変化なし。】

*トレーニング群【肩の他動的外旋可動域が4.3°拡大。コントロール群は変化なし。】

*トレーニング群【24%の選手がトレーニング中、もしくはシーズン中にケガと継続的に付き合う結果となった。トレーニング期間中ケガで離脱した2選手の肩関節の受動的外旋可動域拡大は非常に大きかった。(10° & 11°向上)コントロール群はケガなし。】

〇論文の内容を踏まえた上でのまとめ

近年、ウエイトボールを利用することで球速アップが期待されるといった内容のプログラムが注目されている。①腕振りのスピードアップと、②腕の筋力向上が球速アップを後押しすると考えられているものの、この研究では、トレーニング群では球速アップしたにも関わらず、①と②の両方とも変化しなかったということは興味深い。また、コントロール群は肩の筋力が向上したという点からも、現在期待されている理論(筋力アップが球速アップに影響を及ぼす)に反する結果となった。肩関節の受動的外旋可動域と球速との間には関連性が【トレーニング群➾肩の他動的外旋可動域が4.3°拡大】あることから、今後も注目していく必要があると感じた。それと同時に、短期間(6週間)の急激な関節可動域の拡大がケガを誘発してしまう可能性については注視しておく必要がある。特に今回の被験者【13~18歳】のような発育段階においてまだ各関節の動的柔軟性がコントロールできていないカテゴリーにおいては、ウエイトボールを用いたトレーニング介入に関して慎重に考えていく必要があるのではないだろうか。

 

参考文献

Michael M. Reinold, PT, DPT, SCS, ATC, CSCS,*† Leonard C. Macrina, MSPT, SCS, CSCS, Glenn S. Fleisig, PhD, Kyle Aune, MPH, and James R. Andrews, MD§‖. Author information Copyright and License information Disclaimer Effect of a 6-Week Weighted Baseball Throwing Program on Pitch Velocity, Pitching Arm Biomechanics, Passive Range of Motion, and Injury Rates. Sports Health. 2018 Jul-Aug; 10(4): 327–333.

#33 MLBアナリストも注目する「ピッチトンネル」を活かした投球術とは??

プロ野球のキャンプが始まっておよそ3週間、広島カープの沖縄キャンプも先週の金曜日から始まりました。

カープには注目の選手がたくさんいますが、主力投手である野村祐輔選手もその一人でしょう。

神事(2018)によると、野村投手の凄さは「ピッチトンネル」を活かした投球術にあるようです。

「ピッチトンネル」?? みなさんは「ピッチトンネル」を知っているでしょうか??

「ピッチトンネル」という考え方は、メジャーリーグのトップアナリストも注目しているようです。

https://www.baseballgeeks.jp/?p=5466

そこで今回は、「ピッチトンネル」を活かした投球術について話題提供したいと思います。

 

「ピッチトンネル」とは??

140キロ前後の球速のボールは約0.45秒で打者の手元に届きます。

一方、バットが投球にコンタクトする位置に到達するのは、スイング動作を開始してから約0.16秒後です。

また、打者が「振る!」と決めてからスイング動作の開始までには、約0.1秒のタイムロスがあります。

よって、打者は0.45-0.16-0.1=約0.19秒で「振る!」と決断しなければなりません。

バットの軌道はスイング開始後に大きく変えることはできません。

したがって、打者は投球後のわずかな時間で球種やコース、タイミングを予測してスイング動作を開始しなければなりません。

 

「ピッチトンネル」とは打者が球種やコース、タイミングを判断するギリギリのポイントに設定される仮想の空間です(下図のA)。

「ピッチトンネルが狭い」とは異なる球種であってもピッチトンネルまでの軌道の差が小さく、打者が球種やコース、タイミングを判断するための情報が少ないことを表します。

また、ピッチトンネルが狭く、ピッチトンネルを通過した後の軌道の差が大きい、すなわちホームプレート上に設定されたトンネル(B)が広いと、打者は「ボールが手元で動いた」と感じるようです。

 

一方、他の球種とピッチトンネルを構築できない球種は、打者にとって班別のつきやすい球種となります。

よって、球速や変化量が平均値から大きく外れる特殊な球種でない限り、その球種の効果は限定的なものとなるでしょう。

 

フォークやチェンジアップなどの落ちる球種は、ストライクゾーンにくるフォーシームと同じ「ピッチトンネル」を通すことで、自然と低めにコントロールされます。

それらの球種が高めに浮くと危険とされるのは、「ピッチトンネル」から外れたボールは打者にとって球種の判別が容易なためです。

 

「ピッチトンネル」を活かした投球術とは??

神事(2018)は広島カープの野村祐輔投手がどのように「ピッチトンネル」を活かしているかを報告しています。

 

下記の表は野村投手の球種と平均球速、投球の割合をまとめたものです。

 

野村投手のフォーシーム、ツーシーム、カットボールは球速だけでなく変化量も類似しているため、これらはピッチトンネルの狭い球種となります。

また、ツーシームは主に右打者のインコース、カットボールはアウトコースに投げ込まれますので、この3つの球種は途中から軌道が変わると感じさせるボールになるでしょう。

 

ツーシームとチェンジアップ、カットボールとスライダーは、球速が異なるものの、変化量が類似している組み合わせです。

これらの組み合わせは、類似した軌道でスピード感の違うボールになるでしょう。

 

カーブは他の球種と球速や変化量が大きく異なり、ピッチトンネルを敢えて外しているようです。

このような球種は打者の目線をずらし、配球のアクセントとして使えるでしょう。

 

野村投手は6つの球種をバランス良く投げており(上図参照)、そうすることで打者の対応をさらに難しくさせているようです。

 

このように、「ピッチトンネル」を利用して手元で動くボールと緩急によって前後の奥行きを持たせたボールを駆使することで、突出した球種がない投手であっても第一線で活躍できる可能性があります。

 

「ピッチトンネル」を活かした投球術を身につけるには、まず自分の球種の変化量を把握する必要があります。

その上で、「ピッチトンネル」を構築できる球種の組み合わせを考えます。

例えば、変化方向が左右で異なるスライダーとシュートは、バットの芯をとらえにくくさせる組み合わせと考えます。

類似した変化量で球速の異なるツーシームとチェンジアップは、打者に緩急を感じさせる組み合わせと考えられるでしょう。

このように、自身の球種の変化量を把握して「ピッチトンネル」を構築できる組み合わせを考えてみて下さい。

また、新しい球種を習得しようとする際には、他の球種との関係性を考慮する「ピッチトンネル」の考え方から球種を選択するのも良いでしょう。

 

おわりに

「ピッチトンネル」の概念は今シーズンからメジャーリーグに挑戦する菊池雄星投手(シアトルマリナーズ)も取り入れているようです。

https://www.baseballgeeks.jp/?p=7089

「ピッチトンネル」を活かした投球術を駆使する「沖縄の野村祐輔」や「沖縄の菊池雄星」と呼ばれる投手が現れることを期待しています。

 

参考資料

神事努、最先端の野球 科学的データが導く野球の新常識 球種を生かすピッチトンネルの概念、Baseball Clinic 2018年11月号 28~29ページ