最大酸素摂取量の仕組み(限定要因etc)は非常に重要なテーマとして従来から多く発表されています。最大酸素摂取量の限定要因の理解は単に興味を満たすものだけではなく、重点を理解してトレーニングを実施することは、最大酸素摂取量の上限を効果的に引き上げることにも繋がります。要因の背景や因子の種類は様々で、これらの因子をすべて理解するには莫大な時間を要するため、ここでは重要ポイントに絞って紹介していきます。
・最大酸素摂取量の外的因子と内的因子
外的因子とは「体外環境」を指します。つまり、高酸素なのか低酸素(高地)なのか、そして気温や湿度が高いか低いかなどの環境条件が挙げられます。ほかには、日常のトレーニングやディトレーニングの状況、また運動様式や時間、強度、ドーピングや薬物などの人意的条件も含まれます。一方、内的因子とは、主に体内の「酸素運搬機構」によるものです。肺の換気能や拡散能、血液の循環機能、組織の拡散機能、そして筋肉の酸素消費機が含まれています。今回は、内的因子を中心に紹介します。
・肺の換気能と拡散能
難しい言葉に聞こえますが、簡単に言うと換気能は肺の全容積や肺活量を指します。すなわち、1回の換気量が多ければ多いほど、肺に吸い込まれる酸素の量が多くなります。拡散能とは呼吸で吸い込んだ酸素が肺胞を介して毛細血管に拡散(酸素と二酸化炭素の交換)される能力を指します。構造上は、肺胞の数や密度、そこに分布する毛細血管が多いほどより多くのガス交換(酸素の取込と二酸化炭素の排出)が可能となります。実際高強度運動時には血流が増え、肺胞の毛細血管内における赤血球の通過時間は短くなり、肺から酸素が十分取り込まれないことで血中酸素飽和度(動脈血中の酸素量)は低下します。このような状況と逆に、最大酸素摂取量を増大させる手法として高酸素を吸引する人工的な環境変化を作ることもあります。
・酸素運搬
血流量は酸素を筋肉まで運ぶのに大きな影響を及ぼし、その点を踏まえると運動中の最大心拍出量が最大酸素摂取量を決定する重要な因子の一つであると言えます。赤血球(酸素運搬役)を含んだ血液が全身に送られ、筋内でエネルギーを作り出すことで運動を維持することができます。昔から「スポーツ心臓」という言葉をよく耳にしますが、長距離選手の心臓は心臓の壁部が薄く、弾性も高く、かつ容積(心室の容積)が大きいため、より多くの血液を吐き出すことができます。持久力の向上には体が運動刺激に適応するまで莫大な時間がかかるため、ジュニア期における持久力強化の重要性についての理解が必要不可欠となります。また、持久系競技においてはドーピングによって最大酸素摂取量を向上させる事例もあり、その典型例の一つにEPO(エリスロポエチン:ホルモン調整による造血)の造血機能を利用した最大酸素摂取量向上の有効性が報告されています。
一方、骨格筋の末梢循環では、片脚トレーニングにおいて、トレーニング側の脚で23%の最大酸素摂取量の増大があったと同時に非トレーニング脚でも7%の増加が報告されています1)。非トレーニング脚の最大酸素摂取量増加に関しては、毛細血管密度や酸化酵素活性など、酸素の運搬経路が増えることに起因していると考えられます。角度を変えて、現場での応用を考えると、仮に脚の怪我でトレーニングを休止しても、健側の脚や上肢のトレーニング刺激を追加することで最大酸素摂取量の低下を阻止できる可能性が考えられます。
少し本題からはズレますが、普段の生活面においても、アスリートに限らず、最大酸素摂取量が高いほど「長寿」という説もあり、それは日常の身体活動によって生活習慣病や心血管疾患のリスクが減り、健康寿命が伸びることに関連しています2)。一方、最大酸素摂取量を低下させる要因の一つに「タバコ」が挙げられます。なぜなら、タバコにより発生した一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンと結合しやすく(結合性は酸素より200倍も高く、運搬系の赤血球の酵素の席がタバコの一酸化炭素に簡単に奪われる)、一旦乗ったら(一酸化炭素)簡単に切り離すことができません。それらを踏まえると、日常で苦しいトレーニングをしても結局「車のアクセルとブレーキーを同時踏む」という皮肉な結末に繋がります。もちろん、受動喫煙も同じのようなことで、指導者や家族、周りの方々もタバコのリスクに関してはしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
本話のまとめ
換気能、拡散能(酸素を毛細血管に拡散できる能力)、高い心拍出量と血流量は最大酸素摂取量の限定要因に欠かせない重要な因子であると考えられます。そして、タバコは誰にとっても「百害あって一利なし」なものかもしれません。
次話:最大酸素摂取量の限定要因〜其の二、最大酸素摂取量と活動筋
参考文献:
1, Saltin B., et al. The nature of the training response peripheral and central adaptation to one-legged exercise. Acta Physiol. Scand., 96:289-305, 1976.
2, Laukkanen J. A., et al. Prognostic relevance of cardiorespiratory fitness as assessed by submaximal exercise testing for all-cause mortality: A UK biobank prospective study. Mayo Clin. Proc. May;95(5): 867-878, 2020.