前回では、最大酸素摂取量と循環機能の関連性、特に肺機能や心機能の重要性について述べました。今回は筋肉(活動筋)と最大酸素摂取量について考えていきましょう。
- 筋量
クロスカントリースキーや、ランニングといった腕の働きを含む競技種目の最大酸素摂取量は主に下半身に依存する種目(自転車 etc)に比べてより高い値が観察されています。これは動員された筋量が多ければ多いほど最大酸素摂取量が高くなることが原因と考えられます。つまり、最大酸素摂取量を向上させたい場合、なるべく多くの筋量を動員しながらトレーニングを実施したほうが効果的であるといえます。しかし、ここでの筋量はボディビルダーのような筋量ではなく、長距離選手に特有な遅筋線維(短距離選手は速筋線維)が多く含まれるのが有利とのことです。もちろん、最大酸素摂取量の上限も存在しており、個人の能力を伸ばすには現状のコンディションを把握したうえ、新たな刺激(運動強度や量、頻度の変化)を与えることで理想なトレーニング効果が得られるでしょう。我々がよく使用しているプロトコールについては別の機会で紹介します。
- 筋内の毛細血管
運動による「消費」(酸素の消費)に対して、「供給」は欠かせません。血液から多くの酸素を活動筋に届けるには毛細血管の数や密度といった酸素運搬能力が重要となっています。これらの裏付けとして最大酸素摂取量と筋線維1本あたりの毛細血管の数との間に相関関係が示された有名な研究があります。つまり、活動している筋肉には供給パイプ(付着している毛細血管)が多いほど酸素拡散が高く、結果的に酸素運搬能力が高いということになります。健康の領域においても、継続的に運動を続くと毛細血管が増えと同時に血液の流れによって動脈血管の弾性が高まり、結果的に動脈血管や心臓にかかる圧力が減ることで「高血圧」の改善につながります(ただし安全かつ詳細の運動処方が必要)。
- その他
そのほかにも最大酸素摂取量に関わる限定要因はまだ数多く存在しています。例えば、遺伝的、ホルモン調整、筋肉内の酵素活性、環境的な要因などが挙げられます。しかし、これからの要因はトレーニング現場ではなかなかコントロールできない要因であり、ここでは割愛させていただきます。とにかく、最大酸素摂取量の限定要因に関する研究は世界中にいまだ行われているため、また新たな知見が報告されたら皆さんに紹介します。
- 最大酸素摂取量を向上させるためのトレーニング(前置き)
さて、ここまでくると現場の指導者や選手たちには非常に興味を引く情報になるかと思います。トレーニング条件としては、強度、量、頻度が非常に重要で、その中でも「運動強度」が最も重要であります。当然、最大酸素摂取量は個人差があるため、単に数人集まって同じ運動強度でトレーニングすれば持久力が永遠に伸びるという簡単な話しではありません。やはり、個人差を見極めるためには、何かしらの方法で最大酸素摂取量を定量し、それに基づいた正しい運動強度を算出することがおすすめです。最大酸素摂取量の測定方法や推定方法も多く存在しているため、別の機会にご紹介したいと思います。トレーニングの話に戻ると、これまで持久力トレーニングというと、低強度で長時間すればなんとかなるという考える方も少なくありません。近年では高強度のインターバルトレーニングが流行っており、やり方も様々です。運動強度は?、運動時間は?、休憩時間は?それに、シーズン前とシーズン後にはそれぞれ何をやればいいのか、トレーニング頻度や期間はどうすればいいかというような疑問がたくさんあると思います。ここで明言することが難しいですが、ブログで少しずつ情報を整理していこうと思います。
まとめ
活動筋は最も酸素を消費する場所で、多くの筋量とそれに付着している多くの毛細血管が最大酸素摂取量を決める重要な要因となります。
次回は最大酸素摂取量の実測と推定方法について紹介します。
追伸:
2022年4月からスポーツおきなわでは最大酸素摂取量が実測できるようになりました!測定する際の運動様式はランニングと自転車で選択できます。詳細プロトコールは選手の体力レベルに合わせて設定いたし、データのフィードバックで次のトレーニングプランも提案できます。詳細はホームページやメールにてお問い合わせできます。
コンディションチェック (CONDITION CHECK)
contact@sports-okinawa.org
著者プロフィール
黄忠(コウチュウ)
・鹿屋体育大学博士後期課程満期
・2012-2017年国立スポーツ科学センター研究員
・2013-2017年日本大学非常勤講師
・2017年〜現在 日本オリンピック委員会強化スタッフ(コーチングスタッフ)
所属学会
・日本体力医学会
・日本トレーニング科学会
・日本水泳水中運動学会
・日本運動生理学会
・EUROPEAN COLLEGE OF SPORTS SCIENCE