#64 思春期に起こる心理的問題

 今回は、思春期に起こりやすい心理的問題について紹介します。“心理的問題”という言葉から、治療が必要な病気の問題が想像されるかもしれません。しかし、今回はそういった問題ではなく、競技現場でしばしば“問題”とされる事柄について取り上げ、心理的側面から解説します。

・心理的問題の考え方

次のような選手達は、指導者の目にはどのように映るでしょうか。

「選手Aは、ちょっとしたミスを気にして、いつも硬い表情で練習している。完璧を求めすぎて神経質になっているように見える。“あまり考えすぎるな”と声を掛けると、泣いてしまうので困っている。」

「選手B の怪我は回復していて、主治医からも競技復帰のOKをもらっている。しかし、本人はずっと痛みや違和感を訴えている。念の為、再検査をしたが、やはり主治医からは“怪我は完治している”と言われ、無理にでも練習をさせるべきか悩んでいる。」

「選手Cは、サボるわけではないが、積極的に練習しようとしないと言うか、勝ちたいという強い気持ちが感じられない。身体能力が高いので、努力すれば日本代表として戦える選手になれる可能性は十分にあるだけに、もどかしい。」

競技現場において選手A、B、Cのようなアスリートは、“問題を抱えているアスリート”と言えるでしょう。こういったアスリートに対し、周囲の大人は解決策や対処法を考える前に「なぜ、このような“問題”が生じているのか」という視点で関わることが大切です。

 アスリートに限らず、子どもは心に問題を抱えた時、それが身体の症状や普段と違う行動となって現れやすいと言われています。山登(2011)を参考に、心理的問題が背景にあると考えられる症状を表1に示しました。

表1

大人であれば、自分自身の心身の状態を把握することや、言葉を使って、自分の経験や感情を整理し、それを周囲に説明することができます。しかし、発達途中の子どもは、大人のように言葉を使うことが上手ではありません。言葉で把握したり、伝えたりできないぶん、心に問題を抱えた時「涙」「身体の痛み」「練習に身が入らない」といった、身体の症状や行動で問題が表現されやすいのです。

 

・心理的問題が成長の契機(きっかけ)になる

 子どもが、言葉を使って、自分の経験や感情を整理し、それを周囲に説明することができるようになるためには、身近に優れた聞き手が必要であると言われています(岩宮,2009)。優れているというのは、カウンセリングの技術や知識を有するといった意味ではなく、なんとか自分の気持ちを表現しようとする子どもの言葉を、理解しようという姿勢を持って聞いてくれることです。この時無理に悩みを聞き出そうとする必要はなく「話したい時はいつでも話を聞くよ。」と言うスタンスを大切にしてください。また、話を聞く際も、良いアドバイスをしなければ、と構える必要はありません。「そうか。そうなんだね。」と聞いてくれるだけでも、子どもは自分自身の気持ちと向き合うことができます。このような体験を通じて、自己理解やコミュニケーション能力が育っていきます。

 中込(2015)は、あるカウンセラーの表現を引用し、心理相談室に来談したアスリートが心理的問題に向き合うことの意味を“4C”で説明しています。「競技生活の中で何らかの悩みを抱えたことが来談行動となり、それは心理的危機(Crisis)にあると言える。悩みの多くは、それまでのようなやり方、考え方ではこれからはやっていけないと、何らかの変化を迫られている状況との見方ができる。良い方向に変化(Change)させるために相談は好機(Chance)となり、それに挑戦(Challenge)することが今必要とされているのではないか(以後省略)。」思春期年代のアスリートを支える周囲の大人は、彼らが心理的問題を抱えないように働きかけるのではなく、心理的問題が成長の契機となるように関わることが重要であると言えます。

 次回のブログでは、思春期年代のアスリートのストレスについて紹介する予定です。

 

参考文献

  • 山登敬之(2011)どこまで健康?どこから病気?.山登敬之・斉藤環(編),こころの科学 入門 子どもの精神疾患−悩みと病気の境界線.日本評論社:東京,2-7.
  • 岩宮恵子(2009)フツーの子の思春期−心理療法の現場から.岩波書店:東京.
  • 中込四郎(2015)アスリートがカウンセリングルームを訪れるとき.中込四郎・鈴木壯(編著),スポーツカウンセリングの現場から−アスリートがカウンセリングを受けるとき.道和書院:東京,18-32.

 

#57 サッカーとジュニア Vol.2【持久力編】

 前回のブログでサッカー選手に特に必要な4つの体力的要素について説明しました。今回のブログでは、その体力的要素の測定方法とプロサッカー選手の基準値について紹介します。

①持久的パフォーマンス

 持久的パフォーマンスを発揮する能力を最も精度高く評価できる指標は、最大酸素摂取量です。最大酸素摂取量とは、1分間あたりで摂取される酸素摂取量の最大値のことで、この値が高い程持久的能力が高いと評価することができます。プロサッカー選手の最大酸素摂取量の平均値は、50~75ml/kg/minであり、あるJリーグチームの平均値は57.3 ml/kg/minであると報告されています。しかしながら、最大酸素摂取量の測定は、高額な機器が必要であり、また専門的な知識をもった測定者が必要です。最大酸素摂取量を測定したい人は、一度スポーツおきなわのスタッフに問い合わせてみてください。

 このように最大酸素摂取量を直接測定するためには、さまざまなコストがかかるため、一般的には、サッカー選手の持久的能力は、フィールドテストを行い、その結果から最大酸素摂取量を推定する方法が用いられます。代表的な測定としては、文部科学省の新体力テスト項目である20mシャトルランニングです。サッカーでは、YO-YO Endurance Testの結果から最大酸素摂取量を推定する方法を用いることもあります。YO-YO Testの詳細は下記から調べることができます。

http://sandcplanning.com/solution/category/detail/?cd=10

②高強度運動パフォーマンス

 高強度運動パフォーマンスを発揮する能力の測定には、YO-YO Intermittent Recovery Test(YOYOIR)が良く用いられます。YOYOIRの結果と、試合中の高強度ランニング距離との間には、有意な高い正の相関関係があると報告されています(図1)。

   

図1:YOYOIR level1の結果と試合中の高強度ランニング距離との関係

表1に、アンダーカテゴリーの男子日本代表サッカー選手のYOYOIR level2の結果を示します。ポジションやその選手のプレーの特徴にもよりますが、プロサッカー選手(GKを除く)の基準値としては、男子であればYOYOIR level2の記録が1000m以上、女子であればYOYOIR level1の記録が1520m以上であると考えられえています。

表1:アンダーカテゴリー男子日本代表選手のスプリントテストおよびYOYOIR level2の結果

③スプリントパフォーマンス

 サッカーの試合中、1回のスプリントの時間は平均で2~4秒であり、距離にすると20m以下が多いです。表1にアンダーカテゴリーの男子日本代表サッカー選手の20mスプリントテスト時の結果を示します。このデータは、光電管システム(図2)を用いて測定しています。スタートは音や光刺激に反応するのではなく、選手の任意のタイミングで行ったデータです。スタートから10mと20m位置に光電管を設置し、スタートから10mと20mまでの記録が表1に示してあります。同じ測定方法で、ある年の男子日本代表サッカー選手(A代表)のスタートから10mまでのスプリントに要した時間の平均は1.73秒(GK除く)でした。競技レベルが高い程、10mのような短い距離を素早く走る能力に優れている傾向があります。

図2:アンダーカテゴリーの男子日本代表サッカー選手のスプリント測定で使用した光電管

4)筋発揮パフォーマンス

 ジャンプなど下肢のパワーを瞬発的に発揮する能力は、スプリント能力と同様に試合における決定的な場面で重要な体力的要素です。サッカーでは主にスクワットジャンプ(SJ)、カウンタームーブメントジャンプ腕ふりなし(CMJ腕なし)、カウンタームーブメントジャンプ腕ふりあり(CMJ腕ふりあり)の3種類の測定項目が用いられます。ジャンプの測定方法は、ヤードスティックなどを用いたタッチ式、腰に専用ベルトを巻いてひもの伸びた長さによって測定するひも式、専用のマットスイッチ(図3)を用いて滞空時間からジャンプ高を推定する滞空時間式があります。その中でもサッカーでは滞空時間式でCMJの腕ふりなしの測定値を下肢のパワー発揮能力の指標として用いることが多いです。表2にエリートサッカー選手(プロサッカー選手)の滞空時間式で測定したCMJ腕ふりなしの基準値を示します。プロサッカー選手の基準値としては、男子であれば40~45cm、女子であれば30~35cmであると考えられています。

         

表2:エリートサッカー選手の基準値(マットスイッチを用いたCMJ腕ふりなし)

次回のブログでは、これらの4つの体力的要素を向上させるトレーニングについて紹介したいと思います。

 

引用文献

・日本サッカー協会医学委員会(2019)コーチとプレイヤーのためのサッカー医学テキスト第2版.金原出版・東京.

・ヤン・バングスボ,マグニ・モア(2015)パフォーマンス向上に役立つサッカー選手の体力測定と評価.大修館書店・東京.

中京大学スポーツ科学部 准教授 大家 利之

#56 サッカーとジュニア vol.1【1試合でどれだけ走る?】

 サッカーは、ルールが分かりやすく、用具をあまり必要としないことから世界的にも人気の高いスポーツです。老若男女問わず、レクリーエーションとして、競技スポーツとして、誰もが楽しめるスポーツです。その中でも本ブログでは、プロサッカー選手に必要な体力的要素やトレーニングについて3回にわたって紹介します。

 

  • サッカー選手は1試合(90分間)でどれくらい走るのか?

 最近では、測定機器が小型・軽量化したことや、競技規則の改正によりサッカー選手の試合中の動きをほぼリアルタイムで数値化することができるようになりした。サッカー選手の試合中の動きを測定するのに良く用いられるのは、GPS(Global Positioning System)を利用したパフォーマンス分析装置です(図1)。

図1 GPSパフォーマンス分析装置(https://archivetips.com/gpexe)

GPSパフォーマンス分析装置を使用したデータから、サッカー選手は、1試合で9km~12km走ると言われています(GKは4kmくらい)。ただし、ほぼ一定のペースで前向きに走る陸上の長距離走種目とは違い、サッカー選手はスプリント、ジャンプ、ターン、シュートやタックルなどさまざまな動き繰り返しながら90分間動き続ける体力が必要です。特に時速15km以上の高強度の動きを繰り返す能力は、シュートチャンスを生み出したり、防いだりする決定的な場面で必要です。高強度な動きを繰り返す能力は、現代サッカーでは特に選手に求められます。

 

  • サッカー選手に必要な体力的要素とは?

 サッカー選手の試合中のパフォーマンス発揮に影響する主な要素は、①心理的・社会的要素、②技術的要素、③戦術的要素、④体力的要素、の4つです。ここではサッカー選手が試合中に高いパフォーマンスを発揮するための体力的要素について説明します。

 サッカー選手に特に求められる体力的要素は、次に示す4つです。1)持久的パフォーマンス、2)高強度運動パフォーマンス、3)スプリントパフォーマンス、そして4)筋発揮パフォーマンスです。

1)持久的パフォーマンス

 先程も書きましたが、サッカー選手は試合中にさまざまな動きを行いながら、90分間走り続けます。したがって、サッカー選手に特に求められるのは、2)で示す高強度運動パフォーマンスを繰り返す能力です。しかしながら、一定強度の運動を持続的に行う基礎的な持久力が全く必要ないわけではありません。高強度運動と高強度運動のリカバリー時(回復時)の素早い回復と、この基礎的な持久力の高さは密接に関係しています。基礎的な持久力もサッカー選手には必要な体力的要素です。

 

2)高強度運動パフォーマンス

 スプリント、ジャンプやシュートなど試合中に高強度な運動を繰り返すことができる能力は現代のサッカー選手に特に求められます。イタリアのトップレベルの選手を対象にしたMohrらの研究によると、時速15km以上の高強度運動は1試合あたり平均2.43kmで、競技レベルが高い選手は低い選手と比較してその距離が長いことを報告しています。

 

3)スプリントパフォーマンス

 サッカーの試合中、1回のスプリントの時間は平均で2~4秒であり、距離にすると20m以下が多いです。20m以下の短い距離を素早く走る能力は、試合における決定的な場面で大変重要な体力要素です。試合の中で発揮されるスプリント能力とは、疾走能力だけでなく、認知能力や予測する能力も含まれます。

 

4)筋発揮パフォーマンス

 ジャンプなど下肢のパワーを瞬発的に発揮する能力は、スプリント能力と同様に試合における決定的な場面で重要な体力的要素です。

 

次回のブログでは、これらの4つの体力的要素の測定方法とプロサッカー選手になるためにはどれくらいの能力が必要かについて紹介したいと思います。

 

参考文献

・日本サッカー協会医学委員会(2019)コーチとプレイヤーのためのサッカー医学テキスト第2版.金原出版・東京.

・Mohr et al.(2003)Match performance of high-standard soccer players with special reference to development of fatigue. J Sports Sci; 21: 519-528.

プロフィール

大家利之【おおや としゆき】先生

中京大学スポーツ科学部 准教授

 

 

#55 心拍数でゴルフのスコアを伸ばす!

今回のタイトルのヒントとなる論文はこちら↓

Heart Rate Variability Biofeedback as a Strategy for Dealing with Competitive Anxiety: A Case Study.

今回の論文内容を簡単に説明すると、

”心拍変動と呼吸について理解し、Heart Rate Variability (HRV)  Biofeedback (BFB) トレーニングを実施することで、競技中の不安やストレスが軽減され、それが競技のパフォーマンスにも影響するのかどうか?を調べたケーススタディとなります。

*Heart Rate Variability(HRV)  Biofeedback (BFB) とは、かなりざっくりですが、自分の心拍変動を確認【モニターなどを確認】しながら、複式呼吸を実施したり、心拍変動と呼吸を合わせていくなどのトレーニング方法。【さらに詳しく知りたい方は、参考文献をご参考下さい。】

今回、この内容を調べようと考えた経緯として、#53 ゴルフは、手足が長いと有利?! の内容の中で、有酸素性能力とゴルフのスコアには相関があるという内容をご紹介させて頂いたのですが、”有酸素性能力が高い➾息があがりずらい➾パフォーマンスに心拍数が関係しているのでは?”という素朴な疑問から今回の論文に辿り着くこととなりました。

個人的に期待していたのは、有酸素性能力が高いことで疲れづらくショットが安定しパフォーマンスがあがるのでは?という点だったのですが、今回の内容は少し違う視点でとらえられていたので、みなさんも宜しければご参考下さい。

〇心拍変動と呼吸との関係を知る。

みなさんもご存じの通り、心拍変動には自律神経が関係しており、交感神経が優位になると心拍数は上がり、副交感神経が優位になると心拍数は下がります。心拍変動に影響を及ぼす要因としては、呼吸や感情、体や行動の変化などが挙げられます。また、心拍数は体の内部【神経、内分泌、免疫 etc】を正常且つ一定に保つための恒常性にも影響を及ぼします。

 

〇ケーススタディ内容

 対象:14歳/高校1年生のゴルフ選手【競技歴:7歳~】

    HRV BFBトレーニング前のスコア:平均スコア91【試合】平均スコア70【練習】

〇試合と練習とのスコアにギャップが、、

 本人曰く、競技中のストレスや不安をマネジメントすることが出来ず、パニックになることがある。体の反応としては、呼吸が浅くなる、心拍が速くなる、汗をかく。などが上げられる。これらが原因で、練習通りのスコアが試合で出せないと考えられる。

〇実際のトレーニング

10週間、HRV BFB トレーニングを実施。【合計10セッション, 45-60分/回】

➾1,4,7,10セッションは情報を記録【気分、不安、生理学的指標(ECG,呼吸)etc】/ 2,3,5,6,9 セッションは記録せず。セッション中の呼吸は深すぎないゆっくりとお腹を意識した呼吸を実践。その他にも、毎日20分”ストレスイレイザー”というディバイスを用いて呼吸練習を実施。毎週の試合のスコアを記録。その他にも、心理学的指標として、”The Profile of Mood States (POMS)”や “The Competitive State Anxiety Inventory (CSAI-2) “を用いて、怒り・混乱・落ち込み・疲れ・テンション・活力など6つの気分、自信や冷静さなどを数値化。

”ストレスイレイザー”イメージ写真

 

〇結果

試合時の平均スコアが91から75に向上【-15】

 

合計10セッションのトレーニング終了時には、落ち込みや疲れ等、気分的にマイナスとなるような数値が改善。自信を示す数値に関しては、4ポイント から 26ポイントへと大幅に向上【高校男子アスリートの平均24.5, SD = 5.52】 。

 

まとめ

日頃、無意識に行っている呼吸に意識を向けトレーニングを積むことで効率よくストレスを軽減でき、自信やパフォーマンス向上にも繋がる可能性があるのは面白い視点だと感じました。特に今回のように精神的に未成熟なジュニア選手に対しての取り組みは貴重な情報となる為、今後の指導にも活かしていこうと思います。

また、n=1【被験者】ではあったものの、今回の論文以外にも、HRV BFBトレーニングをおこなうことでレスリングの選手のリアクションタイムやリカバリー時間の短縮、野球のバッティングのパフォーマンスがあがったなどの報告があるようなので、今後も注視していこうと考えています。

P.S. 

タイガーウッズがガムを噛んでいるのは心拍数を落ち着かせる為かな?! 複式呼吸で、吐く息を長く&ガムを噛みながらプレーすると、、

ゴルフのスコアが伸びるかも?!!

Leah Lagos, Evgeny Vaschillo, Bronya Vaschillo, Paul Lehrer, Marsha Bates, and Robert Pandina. Heart Rate Variability Biofeedback as a Strategy for
Dealing with Competitive Anxiety: A Case Study. Applied Psychophysiology & Biofeedback. Volume 36, Issue 3, pp. 109–115, 2008.

Heart Rate Variability(HRV)  Biofeedback (BFB)トレーニング詳細⇩

Lehrer, Vaschillo, and Vaschillo. Resonant Frequency Biofeedback Training to Increase Cardiac Variability: Rationale and Manual for Training. Applied Psychophysiology and Biofeedback 25(3):177-91, 2000.

 

 

#52 重たいボールでトレーニングをしたら、球速はアップするが、ケガのリスクも増える?!

今回ご紹介する文献はこちら↓            

“Effect of a 6-Week Weighted Baseball Throwing Program on Pitch Velocity, Pitching Arm Biomechanics, Passive Range of Motion, and Injury Rates” 

簡単に説明すると、”通常より重たいボールを用いて6週間ピッチング練習を行うと球速、ピッチング時の腕のバイオメカニクス、可動域、ケガのリスクにどのような影響を及ぼすのか?”という内容です。

結論は、、

何名かの選手にとっては、球速があがるという点では効果があるかもしれないが、それと同時にケガのリスクも増える可能性がある。また、球速が上がった理由として肩の受動的外旋可動域の動きが関係している可能性がある。

〇背景

 ここ最近のメジャーリーグ平均球速が、2008年に90.9マイルだったのが、2017年には93.2マイルにまであがってきており、アマチュア野球においても同じような傾向【球速アップ】がみられる。インターネット上での”投手向け球速向上プログラム(投球動作、腕の筋力&スピードを向上させることで5マイル、もしくはそれ以上の球速アップを目指す)”などのマーケット拡大も大きく影響していると考えられる。いくつかの研究においても、重たいボールを用いたトレーニングプログラムが球速アップに効果があると示している。

球速アップと関連して、肘のストレスやケガの割合が増えることが示唆されており、近年はプロアマ問わず、尺骨側副靭帯の再建手術の数が増えてきているのが現状である。【ニューヨーク州においては、2002年から2011年にかけてユースの野球選手における尺骨側副靭帯再建手術の件数が193%に膨れ上がってきている】しかしながら、球速アッププログラムがケガに及ぼす影響について直接調べた報告は少ない。

〇実験方法

対象:38名【13歳~18歳】/過去12カ月以内にケガがなし。

コントロール群/19名【通常練習】、トレーニング群/19名【重たいボールを用いた練習】

測定項目:*他動的可動域(肩/ 肘)*筋力(肩) *球速(通常5オンスボールを使用)*投球動作(肘の内反トルク&肩内旋速度)

時期 & 頻度:オフシーズン【1~2月中の6週間】。 トレーニング頻度・週3日

トレーニング内容

両群ともオフシーズンの通常ストレングス&コンディショニングトレーニングは実施。

トレーニング群は、週3回、下記のトレーニングを実施。【*各トレーニングポジションで5つの異なるウエイトボール➾2,4,6,16,32オンスを使用。】

〇結果

*38名中トレーニング群の4人が離脱【2人が肘、残りの2人下肢のケガ】

*トレーニング群【80% ➾球速アップ / 8%➾変化なし / 12%➾球速ダウン】。

*コントロール群 【67%➾球速アップ / 19%➾変化なし / 14%➾球速ダウン】

*トレーニング介入後の腕の角速度と肘のストレスに対しては変化なし。

*コントロール群 【13%➾利き手の外旋動作の筋力向上。トレーニング群は変化なし。】

*トレーニング群【肩の他動的外旋可動域が4.3°拡大。コントロール群は変化なし。】

*トレーニング群【24%の選手がトレーニング中、もしくはシーズン中にケガと継続的に付き合う結果となった。トレーニング期間中ケガで離脱した2選手の肩関節の受動的外旋可動域拡大は非常に大きかった。(10° & 11°向上)コントロール群はケガなし。】

〇論文の内容を踏まえた上でのまとめ

近年、ウエイトボールを利用することで球速アップが期待されるといった内容のプログラムが注目されている。①腕振りのスピードアップと、②腕の筋力向上が球速アップを後押しすると考えられているものの、この研究では、トレーニング群では球速アップしたにも関わらず、①と②の両方とも変化しなかったということは興味深い。また、コントロール群は肩の筋力が向上したという点からも、現在期待されている理論(筋力アップが球速アップに影響を及ぼす)に反する結果となった。肩関節の受動的外旋可動域と球速との間には関連性が【トレーニング群➾肩の他動的外旋可動域が4.3°拡大】あることから、今後も注目していく必要があると感じた。それと同時に、短期間(6週間)の急激な関節可動域の拡大がケガを誘発してしまう可能性については注視しておく必要がある。特に今回の被験者【13~18歳】のような発育段階においてまだ各関節の動的柔軟性がコントロールできていないカテゴリーにおいては、ウエイトボールを用いたトレーニング介入に関して慎重に考えていく必要があるのではないだろうか。

 

参考文献

Michael M. Reinold, PT, DPT, SCS, ATC, CSCS,*† Leonard C. Macrina, MSPT, SCS, CSCS, Glenn S. Fleisig, PhD, Kyle Aune, MPH, and James R. Andrews, MD§‖. Author information Copyright and License information Disclaimer Effect of a 6-Week Weighted Baseball Throwing Program on Pitch Velocity, Pitching Arm Biomechanics, Passive Range of Motion, and Injury Rates. Sports Health. 2018 Jul-Aug; 10(4): 327–333.

#51 モチベーションが高まる「ちょうどいい目標」とは??

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、今年予定されていた東京オリンピックが来年に延期となってしまいました。選手のモチベーションへの影響が懸念されますが、「延期になってもモチベーションを保ち、その日に向けてやっていきたい」といった力強い選手のコメントもありました。

モチベーション(動機づけ)とは、「行動を開始させ、その行動を適切な方向へと導いていく過程」の総称です。

コーチが選手に動機づけを行う際には、目標を設定することが重要です。なぜなら目標は活動の方向と到達点を示し、選手の行動を適切な方向へと導くものだからです。

しかし、その目標があまりに高過ぎると、行動を開始する意欲が生まれません。逆に、目標が低過ぎても、その目標に進んで取り組む気持ちになれません。つまり、目標が高過ぎても低過ぎても、選手の行動を適切な方向に導くことができないのです。

そこで今回は、選手にとって「ちょうどいい目標」とは??のヒントを与えてくれる「目標の設定が立ち幅跳びの成績に及ぼす効果」(杉原と海野 1976)をご紹介します。

   

この実験では被験者に立ち幅跳びを行わせ、その跳躍距離を成績として評価しています。立ち幅跳びを行う際、被験者には「達成できる可能性の異なるいくつかの目標」を与えます。いくつかの目標とは、「自身の最大跳躍距離の100, 110, 120, 130%の跳躍距離」です。

その結果、下記の図のような結果が得られました。

それぞれの%目標(横軸)で記録された%最大跳躍距離(縦軸)を比較すると、最大跳躍距離の110%を目標にしたとき、立ち幅跳びの成績が最も良くなることが分かりました。

目標を設定せずに立ち幅跳びを行うと、目標を設定した場合よりも成績が悪いことも分かりました。)

最大跳躍距離の110%の目標とは、達成できる可能性が50%くらいのものです。

これらのことから、選手にとって「ちょうどいい目標」とは、自身の努力で達成できる可能性が五分五分くらいの挑戦的な目標であると言えます。

ご紹介したような目標設定は、何回、何mのように明確かつ具体的な数値を設定できる場合に効果的です。サッカー選手のリフティング回数、野球選手の遠投距離、テニス選手のサーブ成功率などの目標設定を行う際に活用してみてはいかがでしょうか?

   

数値目標を設定して練習を行う際には、選手に記録を伝えるフィードバックを行うことをオススメします。下記の図は、目標の設定やフィードバックの実施がパフォーマンスの改善に及ぼす影響を示したものです。

この図のポイントは、目標設定と共にフィードバックを実施したときのパフォーマンスの増加率が、目標設定のみの増加率とフィードバック実施のみの増加率の単純な足し算よりも大きいところです。

すなわち、目標の設定と共にフィードバックを実施することで、パフォーマンス改善への「相乗効果」を期待できるということです。

   

今回のブログでは、選手にとって「ちょうどいい目標」とは「自身の努力で達成できる可能性が五分五分くらいの挑戦的な目標」とお伝えしました。

私の目標は「NAHAマラソンでのサブ4達成」ですが、日々の練習ではサブ4ぎりぎりのレースペースを目標に設定しています。もう少し挑戦的なペースを目標にしなければいけませんね…(汗)

   

参考文献

・松田岩男、杉原隆編著. 4. 運動と動機づけ, 新版 運動心理学入門, 大修館書店, 東京, 54-87, 1987.

・杉原隆. 8. 目標設定と目標志向性, 新版 運動指導の心理学, 大修館書店, 東京, 161-178, 2008.

#50 STAY HOMEしながら筋肥大!?自重トレーニングでの筋肥大に必要な負荷とは??

 緊急事態宣言が延長され、もうしばらく外出自粛の生活が続きます。筋は活動が減少したり、かかる負荷が減少したりすると萎縮してしまうため、「うちトレ」で「アストレ」を行って筋量を維持しましょうと前回のブログでお話しました。

 「うちトレ」でダンベルやバーベルを使える人は少なく、多くの人は自身の体重を使って筋に負荷をかける自重トレーニングを行っていると思います。自重トレーニングで筋肥大を引き起こすような負荷を筋にかけることはできるのでしょうか?今回のブログでは、自重トレーニングで筋を肥大させるために必要な負荷について考えてみたいと思います。

   

筋肥大にはあるレベル以上の負荷が必要!!

 Tanimotoら(2006)はレッグエクステンションマシンを使って8回×3セットの膝伸展運動を週3回行うトレーニングを12週間継続させ、トレーニングによって膝伸展筋群の横断面積が変化するかを調べました。

 その結果、最大挙上重量(1RM)の~80%の高負荷で行ったトレーニングでは、膝伸展筋群の横断面積が増加することが分かりました。一方、~50%1RMの低負荷で行ったトレーニングでは、膝伸展筋群の横断面積が増加しないことが分かりました。これらの結果から、筋を肥大させるには、あるレベル以上の負荷を筋にかける必要があることが分かりました。

   

筋肥大を目的としたトレーニングに適した負荷とは??

 筋力トレーニングを行う目的は、筋力向上、筋肥大、筋持久力向上に大別されます。トレーニングの目的に応じて筋にかける負荷を変える必要がありますが、それぞれの目的に適した負荷は下の表のようになります。

 筋肥大を目的としたトレーニングでは、最大挙上重量(1RM)の67/70~85%という中程度の負荷が適しています。67/70%1RM、85%1RMの負荷で可能な最大反復回数は、それぞれ12回、6回となります。尚、筋肥大ではなく神経系の機能改善による筋力向上を目的としたトレーニングでは、85%以上の高負荷が適しています。また、筋持久力の向上を目的としたトレーニングでは、67%1RM以下の軽負荷が適しています。

   

得られるトレーニング効果はひとつだけじゃない!!

 最大反復回数の少ない高負荷のトレーニングは筋力向上、最大反復回数の多い軽負荷のトレーニングは筋持久力向上に効果的です。よって、高負荷のトレーニングの主な効果は筋力向上、軽負荷のトレーニングの主な効果は筋持久力向上となります。しかし、下の図に示したように、ある負荷で得られるトレーニング効果はひとつだけでなく、主なトレーニング効果に加えて補助的なトレーニング効果も得ることができます。例えば、最大反復回数の少ない高負荷のトレーニングで最も効果が得られるのは筋力向上ですが、筋肥大や筋持久力向上に関してもそれなりの効果が得られます。

   

自重トレーニングで筋を肥大させるためには??

 筋を肥大させるためには、あるレベル以上の負荷を筋にかける必要があります。ダンベルやバーベルを使わず、自身の体重を使って筋に負荷をかける自重トレーニングを「うちトレ」で行った場合、筋肥大に必要な負荷を筋にかけることはできるのでしょうか?

 筋肥大を目的としたトレーニングに適した負荷は、最大挙上重量(1RM)の67/70~85%の中程度の負荷と言われています。よって、筋肥大に必要な最低限の負荷は、最大挙上重量の67/70%の負荷であると考えられます。67/70%1RMの負荷を用いた場合、反復できる最大回数は12回と言われています。これらのことから、自重トレーニングの最大反復回数が12回以下であれば、筋肥大を期待できる負荷になっていると考えられます。よって、最大反復回数が12回以下の自重トレーニングを90秒前後の休息時間を挟みながら、3~6セット行うことで、筋肥大を目的としたトレーニングになると思われます。

   

おわりに

 今回のブログでは、自重トレーニングによって筋肥大を引き起こすために必要な負荷について考えてみました。具体的な自重トレーニングの方法は、下記のスポーツおきなわのYouTubeチャンネルでご紹介しています。是非ご覧下さい。

https://www.youtube.com/channel/UCxNx7HULFWehXu6FXdZGLwg/featured

 外出自粛期間中に行う「うちトレ」の目的を「コロナ太り防止」や「筋量減少の防止」から「筋肥大」に変えてみてはいかがでしょうか?外出自粛明けにムキムキボディで登場し、友達や同僚をザワつかせましょう!(笑)

   

参考文献

・Tanimoto M, Ishii N. Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men. J Appl Physiol 100(4): 1150-7, 2006.

・Sheppard JM, Triplett NT (篠田邦彦, 岡田純一監修). レジスタンストレーニングのためのプログラムデザイン. NSCA決定版ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版, ブックハウス・エイチディ, 東京, 479-512, 2018.

・有賀誠司. 筋力トレーニングのプログラム作成. トレーニング指導者テキスト 実践編 改訂版, 大修館書店, 東京, 38-53, 2014.

#49 ストップ!コロナ太り 外出自粛の生活に「うちトレ」のススメ

 外出自粛の生活で運動や生活による活動量が減っていますが、みなさんの体重はどうなっていますか?体重は消費カロリーと摂取カロリーのバランスで変化しますから、消費カロリーがどうしても減ってしまう今の生活では、摂取カロリーが体重変化のポイントになるでしょう。Mayerら(1954)はラットを使って運動時間とカロリー摂取量や体重の関係を調べ、下図のような結果を発表しました。

 「正常な活動量」の範囲では、運動時間が減るとそれに合わせて摂取カロリーが減るため、体重は大きく変化していません。しかし、「正常な活動量」より運動時間が少ない「じっとした生活」では、運動時間が減るほど摂取カロリーが増え、体重が増えています。つまり、「正常な活動量」に満たない「じっとした生活」を送ると、必要以上のカロリーを摂取してしまい、体重の増加を引き起こしてしまうということです。一方、「疲労困憊」まで運動を行わせると摂取カロリーは減少し、体重の減少が引き起こされています。そのような状況は、部活動の合宿で連日疲労困憊まで練習を行ったときに似たものでしょう。

 外出自粛の生活でみなさんの活動量は減っていますが、それに合わせて食事量は減っているでしょうか?いつもより増えていないでしょうか?いつもより食事量が増えている場合は、外出自粛の生活が「正常な活動量」に満たない「じっとした生活」になっている可能性があります。外出自粛の生活が「正常な活動量」を満たすよう、お家でできるトレーニング「うちトレ」を外出自粛の生活に取り入れることをオススメします。「うちトレ」の成果を客観的に評価するため、体組成計を使って体重や体脂肪率の変化を測定することも大切です。体組成計の使用上の注意点を下記のブログで紹介しましたので、測定を行う際には参考にして下さい。

 外出自粛の生活で体重が減っている場合、筋量の減少が心配です。なぜなら筋は活動が減少したり、かかる負荷が減少したりすると、萎縮してしまうためです。Akimaら(2000)は寝たきりの生活を20日間続けると下肢の筋がどのくらい減るかを調べました。その結果、寝たきりの生活によって膝関節の伸展筋群は7.5%、膝関節の屈曲筋群は10.5%、足関節の底屈筋群は14.0%の体積が減少することが分かりました。しかし、寝たきり生活の中で30回のレッグプレスを毎日実施することで、膝関節の伸展筋群の体積低下率を4.0%に抑えることができました。これらのことから、外出自粛の生活においても「うちトレ」で筋力トレーニングを行うことによって、筋量の減少を抑えられると考えられます。筋量の変化は徐脂肪体重の変化によって把握することができます。徐脂肪体重は体重から体脂肪の重さを除いた重さで、[体重-体重×(体脂肪率÷100)]によって求められます。徐脂肪体重の約50%が筋の重さであることから、徐脂肪体重を筋量の指標として用いることができます。

 「ストップ!コロナ太り」のため、「ストップ!筋量の減少」のため、外出自粛の生活の中に「うちトレ」を取り入れることをオススメします。どんな「うちトレ」をしたら良いか分からない方には、スポーツおきなわの「アストレ」をオススメします!!「アストレ」とは「アスリート向けのトレーニング」の略称ですが、やり方や回数を工夫することでアスリートでなくても行うことができます。具体的な方法はスポーツおきなわのYouTubeチャンネルでご紹介していますので、「うちトレ」を検討の際には是非ご覧下さい。

https://www.youtube.com/channel/UCxNx7HULFWehXu6FXdZGLwg

 外出自粛の生活で「うちトレ」で「アストレ」を行い、コロナ太りや筋量の減少に歯止めをかけて下さい。外出自粛の期間中「うちトレ」で「アストレ」を続けたら、外出自粛が終わる頃には完ぺきなアスリートボディに仕上がっているかも!?

   

参考文献

Mayer J, Marshall NB, Vitale JJ, Christensen JH, Mashayekhi MB, Stare FJ. Exercise, food intake and body weight in normal rats and genetically obese adult mice. Am J Physiol 177, 544-548, 1954.

Akima H, Kubo K, Kanehisa H, Suzuki Y, Gunji A, Fukunaga T. Leg-press resistance training during 20 days of 6 degrees head-down-tilt bed rest prevents muscle deconditioning. Eur J Appl Physiol 82, 30-38, 2000.

#47 トップのラグビー選手、ジュニア時代はこうだった !!6つのポイント その②

 ワールドカップラグビーは、南アフリカの勝利で幕を閉じました!日本がもし南アフリカと対戦していなければ、、なんて思ったファンの方も多かったのではないでしょうか? 改めてこれからの日本代表の活躍が楽しみになってきましたね!4年後が待ちきれません!! 今回は前回に続き、ワールドカップ熱でジュニアの競技人口が増えてきたであろうタイミングで指導者の方々にシェアさせて頂きたい内容をご紹介させて頂きます。

③スピードは13-15歳の間に伸び率が高くなる!

 スピードに関しては、エリート選手がその他の選手に比べて速く、全体的にはバックスの選手がフォワードの選手に比べて速いことが分かっています。年代別に比べてみると13歳と15歳のカテゴリーにおいて伸び率が高く、これは身長の伸び率や成長のタイミングがストライド長やピッチの向上に関係することが影響していると考えられます。60m走では、晩熟の選手が13-15歳の間に数値が向上し、16歳以上のカテゴリーでは、スピードトレーニングのトレーナビリティが低くなることもわかっています。これは身長の伸びが落ち着いた後に体重が増えてくるという成長要因が関係していると考えられます。このことから、16歳以上の選手は身長や体重などのコンディションをモニタリングしておくことは非常に重要だと考えられます。ある程度、年齢が低い時期には体重とスピードの両方を伸ばすことができるが、成長と共に体重が増えていく過程でいかにスピードを維持できるのかがシニアで活躍する為のポイントとなりそうです。

④方向転換能力は特異的な刺激が重要!

 ポジション別では、バックスとフォワード間において方向転換能力に関しては大差はなく(プロップを除く)、スピード同様年齢(特に13~15歳カテゴリーの伸び率が高い)と共に伸びることが分かっています。エリート選手とそれ以外の選手の5-0-5アジリティテストの数値を比較したデータもある為、ご参考頂けたらと思います。(エリートvs サブエリート 2.38±0.08秒 vs 2.68±0.08秒)プロップは、他のポジションに比べて方向転換能力が低いこともあり、キャリアが短くてもポジションに必要な能力が備わっていることでトップレベルで活躍できるチャンスは高い傾向にあるようです。(遅い時期でも他競技からタレント発掘が出来そうですね)方向転換能力はトップリーグで活躍する為に必要不可欠な能力となることから、ジュニア期はシンプルな方向転換能力以外にも競技特異的な刺激を含んだ方向転換能力を獲得しておくことが重要だと言えそうです。

まとめ

 スピードや方向転換能力(加速・減速を含む)は、大きく伸びる時期がある程度決まっているようなので、その時期までに如何に多くのスキルを身に着けることができるかがトップで成功する為のカギとなりそうです。成長と共に、パフォーマンスの伸び率に変化が起こるということを指導者が理解しておくことは、ジュニア期を指導する上で、戦術やスキル指導同様重要なことかもしれませんね。

P.S.

次回は、ジュニア期の筋トレや有酸素運動に関してご紹介させて頂きます(^-^)。

参考文献 Kevin Till,Sean Scanthebury, Ben Jones. Anthropometric and Physical Qualities of Elite Male Youth Rugby League Players. Sports Med 47:2171-2186. 2017.

#46 トップのラグビー選手、ジュニア時代はこうだった !!6つのポイント その① 

我らが日本代表、残念ながら南アフリカに負けてしまいました。。しかしながら、南アフリカは準決勝でウェールズ代表を破り決勝にコマを進めてくれました!しかも、決勝の相手は名将エディー・ジョーンズ監督(前回大会の日本代表監督)率いるイングランドです。そんな盛り上がりをみせているラグビーですが、各地で開催されている子供向けのラグビー教室も人気のようで、将来ラグビー日本代表を夢見る子ども達が増加中とのこと。そこで、今回はこれからラグビーを始める子ども達と関わる指導者向けに参考になる情報をシェアさせて頂こうと思います。

 ジュニア期 (13-20歳)の選手がどういった体の特徴を持っていて、その後どのようにキャリアを積んでいったのかについて紹介している論文があったのでシェアさせて頂きます。データは、ヨーロッパのスーパーリーグやオーストラリアのナショナルラグビーリーグ(13人制)を基準としている為、今回のワールドカップラグビー(15人制)とは単純に比較できない部分はあるかとは思いますが参考になればと思います。

① 昔からサイズが大きかったわけではなかった!?

ジュニア期(13-20歳)は、身長・体重ともに年齢と共に増加傾向にあり、エリート選手がそれ以外の選手に比べ数値は高く、ポジション別にみるとフォワードの方がバックスに比べて身長が高い傾向にあるようです。13-15歳のカテゴリーにおいて、身長・体重の変化量が大きいことも分かっています。

16歳以下のカテゴリーにおいて、エリート選手とそれ以外の選手では、身長・体重ともに大きな違いがない (エリート178.8±5.9cm, 77.5±10.0kg, サブエリート 175.2±6.9cm, 72.3±11.7kg) ことが分かっており、リーグのレベルが高くなるにつれて、サイズの違いがより顕著となります。

実際に、プロになった選手とアマチュアになった選手が13-15歳以下のカテゴリーだった時期を比べてみると、身長・体重共に14歳では差がなかったという点に関しては興味深い内容だと言えます。しかしながら、同じサイズでも下半身に関しては将来プロになった選手の方がサイズが大きかったようです。この時期は、同じ体重であっても下肢がしっかりとしているかどうかが将来成功する為のカギを握っているかもしれませんね。ジュニア期に関して、身長・体重とタックルのスキルとはダイレクトに関係しない為、16歳以下までは体のサイズを積極的に大きくする必要はなさそうだということも今回の論文では言及されていました。

② 下肢の皮下脂肪が将来成功するカギを握っている!

 皮下脂肪に関しては、 エリート選手はそれ以外の選手に比べて低く、ポジション別にみるとバックスの選手がフォワードの選手 に比べて低いことがわかっています。身長と体重が成長と共に安定した後では、バックスの選手はアカデミーレベルとプロレベルの選手との間に大きな差がない (13.7±1.6kg vs 12.6 ±1.1kg) こともわかっています。しかしながら、フォワードに関しては、プロ選手はアカデミーレベルに比べ、皮下脂肪(アカデミーレベル 19.3±1.6kg vs プロ 15.4±1.1kg)や骨量に関して大きな違いがみられ、その中でも下肢の皮下脂肪に関しては顕著な差があったようです。13-15歳のカテゴリー時期においては、プロになった選手はアマチュアになった選手と比べ、皮下脂肪が低い(33.4±9.8mm, 41.6±18.2mm)傾向にあったということを踏まえると、皮下脂肪がつきづらく且つ筋肉量が増えやすいという身体的な特徴を持った選手がトップレベルに上がっていく可能性も高くなりそうですね。指導者側がリーグのレベルやポジションに応じた最適な体脂肪率を抑えておくことが質の高い強化に繋がっていきそうです。

まとめ

今回は、ラグビー選手のジュニア期に注目した論文をご紹介させて頂きましたがいかがでしたか? ジュニア期の成長特性やその後選手がどのレベルまで到達したのかを知っておくことは育成や強化の手助けとなります。指導者の方々にも是非ご参考頂ければ幸いです。 その②はスピード・加速・減速・方向転換に関してご紹介させて頂きます!

参考文献 Kevin Till,Sean Scanthebury, Ben Jones. Anthropometric and Physical Qualities of Elite Male Youth Rugby League Players. Sports Med 47:2171-2186. 2017.