#36 筋の硬さを観測できる近未来の“ひみつ道具”とは??

今月から映画ドラえもんシリーズ「のび太の月面探査記」が公開されています。

ドラえもんに欠かせないのは、「こんなこといいな、できたらいいな~♪」を叶えてくれる未来の“ひみつ道具”ですよね。

今回はトレーニングの「こんなこといいな、できたらいいな~♪」を叶えてくれる超音波エラストグラフィという“ひみつ道具”をご紹介したいと思います。

超音波エラストグラフィは、

ストレッチ中に狙った筋が伸びてるか知りたいな~♪

トレーニング動作中に狙った筋が活動してるか知りたいな~♪

そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。

 

ストレッチ中に狙った筋が伸びてるか知りたいな~♪

リラックスした状態の筋は伸ばされると硬くなります。

よって、ストレッチによって筋が硬くなっていれば、その筋が伸びていることになります。

超音波エラストグラフィは組織の弾性(硬さ)を観測する画像診断技術です。

産婦人科で使用するような超音波診断装置に内蔵され、皮膚上にプローブを置くだけで筋の硬さを観測することができます。

下の図は足関節を底屈位から背屈位へと動かしたときに、腓腹筋内側頭の超音波画像を取得したものです。

足関節の背屈に伴って筋が伸びていることがBモード画像から、筋が硬くなっていることがエラストグラフィ画像から分かります。

 

以下の図は足関節を背屈位で固定し、腓腹筋内側頭の硬さがどのように変化するかを超音波エラストグラフィで調べたものです。

腓腹筋内側頭は100秒までどんどん軟らかくなり、それ以降も緩やかに軟らかくなっていることが分かります。

このことから、ストレッチで筋を伸ばした状態を維持すると、筋が徐々に伸びやすくなってストレッチ感が軽減することが示されました。

 

超音波エラストグラフィを用いて棘上筋が伸びやすいストッレチポジションを検討した結果が下記の図です。

棘上筋がより硬くなる、すなわち棘上筋がより伸ばされるのは、

・肩関節挙上45°、肩関節最大水平外転、肘関節90°(Ele45HAb)

・肩関節挙上90°、肩関節最大水平外転、肘関節90°(Ele90HAb)

・肩関節最大伸展、肩関節最大内転、肘関節90°(Ext)

で肩関節を最大内旋させたときであることが分かりました。

 

このように、超音波エラストグラフィは、

・ストレッチ中に狙った筋が伸びてるかを知りたい。

・どのくらいのストレッチ時間が必要かを知りたい。

・効果的なストレッチポジションを知りたい。

そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。

 

トレーニング動作中に狙った筋が活動してるか知りたいな~♪

筋は活動して力を発揮すると硬くなります。

よって、トレーニング動作中に筋が硬くなっていれば、その筋が活動して力を発揮していることになります。

下の図は安静状態および全力の45%の肘関節屈曲筋力(45%MVC)を発揮したときに取得した上腕二頭筋の超音波エラストグラフィ画像です。

安静状態に比べて屈曲筋力を発揮した時の方が上腕二頭筋が硬くなっているのが分かります。

15, 30, 45, 60%の筋力を発揮させたときの上腕二頭筋の硬さを測定すると下記のようになります。

上腕二頭筋は肘関節屈曲筋力の増加に伴って硬くなったことから、肘関節を屈曲させる際に活動して力を発揮する筋であることが確認できました。

 

超音波エラストグラフィを用いて、腹横筋が様々なトレーニング動作中にどの程度活動しているかを調べたものが下記の図です。

安静時に比べてトレーニング動作中の方が腹横筋は硬くなりましたが、特にブレーシング(2)やデッドリフト(3)の際に硬くなっていました。

このことから、腹横筋はブレーシングやデッドリフトの際に特に大きく活動し、力を発揮することが示されました。

 

以上のように、超音波エラストグラフィは、

・トレーニング動作中に狙った筋が活動しているかを知りたい。

・鍛えたい筋がどのトレーニング動作で大きく活動するかを知りたい。

そんな夢を叶えてくれる“ひみつ道具”です。

 

おわりに

現段階では超音波エラストグラフィをスポーツ現場で見かけることはないと思われます。

しかし、医療や研究の分野では超音波エラストグラフィの普及が進んでおり、それに伴って観測技術も進化しています。

たったらたった たーったたー♪ 超音波エラストグラフィ―!!

筋の硬さを観測できる“ひみつ道具”として超音波エラストグラフィがスポーツ現場に登場する未来がそう遠くないと期待しています。

 

参考資料

・Chino K, Takahashi H. Association of Gastrocnemius Muscle Stiffness With Passive Ankle Joint Stiffness and Sex-Related Difference in the Joint Stiffness. J Appl Biomech. 2018; 34: 169-174.

・Freitas SR, Andrade RJ, Larcoupaille L, Mil-homens P, Nordez A. Muscle and joint responses during and after static stretching performed at different intensities. Eur J Appl Physiol. 2015; 115: 1263-1272.

・Nishishita S, Hasegawa S, Nakamura M, Umegaki H, Kobayashi T, Ichihashi N. Effective stretching position for the supraspinatus muscle evaluated by shear wave elastography in vivo. J Shoulder Elbow Surg. 2018; 27: 2242-2248.

・Yoshitake Y, Takai Y, Kanehisa H, Shinohara M. Muscle shear modulus measured with ultrasound shear-wave elastography across a wide range of contraction intensity. Muscle Nerve. 2014; 50: 103-113.

・Hirayama K, Akagi R, Moniwa Y, Okada J, Takahashi H. TRANSVERSUS ABDOMINIS ELASTICITY DURING VARIOUS EXERCISES: A SHEAR WAVE ULTRASOUND ELASTOGRAPHY STUDY. Int J Sports Phys Ther. 2017; 12: 601-606.

#32 おきなわマラソン直後は要注意!! 筋肉痛と「からだのチューニングのズレ」

日曜日のおきなわマラソン、お疲れ様でした!!

日頃のトレーニングの成果を発揮して目標を達成できたでしょうか?

今は激走の証である人生最大級の筋肉痛に苦しんでいるのではないでしょうか?

しばらくは休養と軽めの運動で筋肉痛からの回復に努めて下さい。

今回はBrockettら(1997)をご紹介し、筋肉痛(筋損傷)の状態で運動を行う際に気をつけて頂きたい「からだのチューニングのズレ」について話題提供したいと思います。

 

筋肉痛(筋損傷)を生じさせる運動

Brockettら(1997)の研究では、被検者にアームカールを繰り返し行わせました。

アームカールの負荷は最大筋力の20%で、被験者は運動7秒-休憩3秒というペースでアームカールを最低120回繰り返しました。

一方の腕で負荷を上げる短縮性運動(⬆)、他方の腕で負荷を下ろす伸張性運動(⇩)を行わせました。
このような運動を行わせることで、伸張性運動を行った上腕屈曲筋群に筋損傷を生じさせることができます。

 

位置感覚(position sense)のテスト

被検者は目隠しをされ、肘関節を30、60および90°に合わせるよう指示されました。

また、一方の腕を肘関節30、60または90°で固定し、他方の腕をその位置に合わせる試行も行いました。

被検者はテスト前に固定された腕で短時間の力発揮を行い、腕の位置の確認を行いました。

 

短縮性運動を行った腕(concentrically exercised arm: CA)と伸張性運動を行った腕(eccentrically exercised arm: EA)の位置のズレ(関節角度の違い)を示したのが下の図です。

運動前の位置のズレは0.7°でしたが、運動24時間後のズレは-4.9°となっています。

このようなズレが生じたのは、EAがCAに比べて常に伸展した関節角度を取ったためでした。

被検者は筋損傷が生じたEA側の筋の長さを実際よりも短く感じ、正確な位置よりも伸展した角度に腕を合わせてしまったようです。

伸張性運動によって筋が損傷したことで、筋の長さを検知する役割を持つ「筋紡錘」が正常に働けなくなったことが原因であると考えられます。

 

力覚(force sense)のテスト

被検者は最大筋力の10%の力(トルク)を発揮するよう指示されました。

それぞれの腕の最大筋力の10%の力はテスト開始前に視覚フィードバックによって確認されました。

テスト中に対象となる腕の発揮筋力は視覚フィードバックされず、他方の腕の発揮筋力のみ視覚フィードバックされました。

力覚のテストは位置感覚のテストと同じ装置を用い、肘関節90°で行われました。

 

下の図は短縮性運動を行った腕(CA)と伸張性運動を行った腕(EA)が発揮した力のズレ(トルクの違い)を示したものです。


運動前の力のズレは0.1%でしたが、運動24時間後のズレは-3.8%となっています。

EAが発揮した筋力が常に目標よりも低かったため、このようなズレが生じてしまいました。

伸張性運動を行ったEAでは筋が損傷したたため、筋の発揮した力を検知する役割を持つ「腱器官」が正常に働けなくなってしまったようです。

 

まとめ

筋が損傷しているときには、筋の長さを検知する「筋紡錘」や筋の発揮した力を検知する「腱器官」が正常に働くことができないようです。

すなわち、位置感覚や力覚が微妙に狂う「からだのチューニングのズレ」が生じている状態で、関節角度や発揮筋力の調整力が低下してしまっています。

よって、いつもと同じように動いているつもりでも、実際にはいつもとは微妙に異なる動きになってしまう可能性があります。

いつもとは微妙に異なる動きが、深刻な怪我を引き起こしてしまったら大変です。

筋損傷(筋肉痛)があるときにトレーニングや試合を行うには、自身の動きに細心の注意を払うようにして下さい。

 

参考資料
Brocketta C, Warrena N, Gregory JE, Morgan DL, Proske U (1997) A comparison of the effects of concentric versus eccentric exercise on force and position sense at the human elbow joint. Brain Research 771: 251-258