#60 足を速くする方法とは!? Vol.1

 “速く走る”ことは様々なスポーツ種目において必要なことであり、パフォーマンスレベルにも大きくかかわる要素のひとつです。足を速くするためにはどんなことが必要なのか、本コラムで3回にわたって科学的知見を交えながら紹介していきます。

 

ピッチかストライドか

 陸上競技だけでなく、球技などの様々なスポーツにおいて、速く走る能力、つまりスプリント能力がパフォーマンスに強く関わってきます。スプリント能力は疾走速度によって評価されますが、疾走速度は「疾走速度(m/秒)=ピッチ(歩/秒)×ストライド(m)」という式で表されます。ピッチは、いわば脚の回転する速さのことで、一定時間内の歩数を表します。ストライドは、1歩の歩幅を表します。なお、ピッチとストライドという用語が一般的に用いられますが、「ストライド」という用語は,本来は「2歩(ある足の接地からもう一度同じ足が接地するまで)の歩幅」を表します。1歩(ある足の接地から逆側の足の接地まで)を意味する正しい用語は「ステップ」です。したがって、厳密に言うと「ピッチ」は1ステップの頻度である「ステップ頻度」、「ストライド」は1ステップの長さである「ステップ長」と表すのが正確です。しかし、理解しやすくするために、本コラムでは、一般的な用語であるピッチとストライドという表現に統一します。

 上述した式にあるように、疾走速度はピッチとストライドの積で決まるとすると、疾走速度を高めるには以下の5つの選択肢が考えられます。

 

 ①ピッチとストライドの両方を増加させる

 ②ピッチを維持して、ストライドを増加させる

 ③ピッチを犠牲にして、それ以上にストライドを増加させる

 ④ストライドを維持して、ピッチを増加させる

 ⑤ストライドを犠牲にして、それ以上にピッチを増加させる

 

 果たして、疾走速度を高めるためには、ピッチとストライドのどちらが重要なのでしょうか?結論から言うと、ピッチのほうが重要であるとする説とストライドの方が重要であるとする説の両者が存在し、結論が出ていないのが現状です。また、トップアスリートの中でも、ピッチが特に高い者もいれば、ストライドが特に大きい者もいます。アスリート個人の中でのパフォーマンス変動をみても、パフォーマンスがピッチに依存する者もいればストライドに依存する者もいます(Salo et al., 2011)。つまり、ピッチが重要かストライドが重要か、個人の特性に大きく依存するため、ケースバイケースということになります。また、ピッチとストライドは、疾走速度がほぼ同じの場合、一方を高めればもう一方が低下するトレード・オフ関係にあるため (Hunter et al., 2004) 、どちらか一方のみを重要視することはあまり得策ではありません。以上のことを考えると、①・②・④の選択肢がベターであると言えます。

 では、ピッチやストライドに影響を与えるのはどんな要因でしょうか?Hunter et al. (2004) は,両者に大きく影響を及ぼすのは滞空時間であり、滞空時間が短いとピッチが高くなり、滞空時間が長いと滞空距離が大きくなることでストライドが大きくなる傾向にあると報告しています。高いピッチを獲得するためには、滞空時間を短くすることが重要になり、素早く脚を回復し接地しなければなりません。そのためには、脚の動作範囲を小さくすることや(阿江, 2001)、脚を素早く動かすために、股関節の屈曲伸展に関わる筋群(大殿筋、ハムストリングス、内転筋など)が大きな力を発揮することが必要になります。また、大きなストライドを獲得するためには、接地中に地面により大きな力を加えることで、滞空時間を長くすることが重要になります(山元, 2014)。そのためには、接地中に下肢の各関節が大きな力を発揮することが重要であると考えられます。以上のことから、ピッチを高めるにしてもストライドを高めるにしても、下肢で発揮できる力を大きくする必要があるため、下肢の筋力を高める必要があるでしょう。さらに、ピッチを高める場合には、脚をコンパクトに動かす、素早く動かすために神経系機能(神経-筋の協調性)も向上させる必要があると言えます。この辺りを意識してトレーニングを行うことが、疾走速度の向上には必要になってきます。

関西福祉大学 講師 熊野陽人

 

[資料]

・阿江通良 (2001) スプリントに関するバイオメカニクス的研究から得られるいくつかの示唆. スプリント研究, 11: 15-26.

・Hunter, J. P., R. N. Marshall, P. J. Mcnair. (2004) Interaction of step length and step rate during sprint running. Med. Sci. Sports Exerc., 36 (2) : 261-271.

・Salo, A. I. T., Bezodis, I. N., Batterham, A. M., and Kerwin D. G. (2011) Elite Sprinting: are athletes individually step-frequency or step-length reliant?. Med. Sci. Sports Exerc., 43(6): 1055-1062.

・山元康平 (2014) スプリント走におけるピッチとストライドに関係する要因. RIKUPEDIA 陸上競技の理論と実際: http://rikujo.taiiku.tsukuba.ac.jp/column/2014/14.html.

 

 

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