バドミントンワールドツアーの最終戦「HSBC BWF ワールドツアーファイナルズ2018」が12日(水)から中国の広州で始まりました。
この大会には出場できるのは年間獲得ポイントが上位の8名だけですが、日本代表選手はすべての種目に出場しています。
その凄さを今年の流行語で説明すると、「バドミントン日本代表、半端ないって!!
ファイナル全種目に出場するもん。そんなんできひんやん、普通」となります。
そこで今回は、ワールドツアーファイナルズ2018に出場している選手を含むバドミントン日本代表の形態・身体組成について報告した論文をご紹介します。
日本代表男子選手の形態・身体組成
測定は2017年2~3月に行われ、選手の中にはリオ五輪や世界選手権2017に出場した選手や世界選手権2017のメダリストも含まれています。
男子選手の測定結果をA代表(いわゆるトップチーム)とB代表、シングルスとダブルスに分けて示したものが以下の表です。
除脂肪体重とは体重から体脂肪の重さを除いた重さ、すなわち筋、骨、脳・神経、内臓の重さです。
高齢かつ肥満でない男女では除脂肪体重の約50 %が筋の重さ(Wang et al. 2010, 2011)のため、除脂肪体重は筋量の指標として用いられます。
また、除脂肪体重に対する身長の影響を考慮して除脂肪体重を身長の2乗で除したLBMI(Lean Body Mass Index)が算出されています。
A代表ではシングルス選手がダブルス選手よりも身長が高いという結果が得られました。
バドミントン選手にとって身長が高いことは、コートのより広い範囲をカバーできる点やより高い位置からシャトルを打ち下ろすことができる点で有利に働くでしょう。
一方、B代表ではシングル選手とダブルス選手の形態・身体組成に違いは見られませんでした。
日本代表女子選手の形態・身体組成
女子選手の測定も2017年2~3月に行われ、選手の中にはリオ五輪や世界選手権2017に出場した選手やメダリストも含まれています。
A代表ではシングルス選手がダブルス選手よりもLBMI(Lean Body Mass Index)が大きいという結果が得られました。
一方、B代表の形態・身体組成にはシングル選手とダブルス選手の違いが見られませんでした。
シングル選手とダブルス選手の形態・身体組成の違いは男女ともA代表のみで見られ、B代表では違いが見られませんでした。
このことから、形態・身体組成の種目への特化はトップエリートレベルのバドミントン選手のみで見られると考えられます。
ダブルスの選手はプレースタイルによって「前衛タイプ」と「後衛タイプ」に分類することができます。
「前衛タイプ」とはコート前方でのプレーを得意とするタイプで、ネット付近での高度なスキルが求められます。
「後衛タイプ」とはコート後方でのプレーを得意とするタイプで、コート後方から力強いショットを打つことが求められます。
この基準に従ってA代表のダブルス選手を分類したところ、LBMIは「前衛タイプ」(5名)が17.3 ± 0.9 kg/m2、「後衛タイプ」(3名)が18.6 ± 1.3 kg/m2となりました。
除脂肪体重は筋量の指標、LBMI は身長を考慮した除脂肪体重ですから、シングルスの選手と「後衛タイプ」の選手の筋量は同等であり、それらの選手に比べて「前衛タイプ」の選手は筋量が少ないことが分かりました。
今回のワールドツアーファイナルズには、髙橋選手と松友選手のタカマツペアと永原選手と松本選手のナガマツペアが出場しています。
タカマツペアは「前衛タイプ」の松友選手と「後衛タイプ」の髙橋選手のペアで、リオ五輪では金メダルを獲得しました。
ナガマツペアは基本的には永原選手が「前衛タイプ」、松本選手が「後衛タイプ」です。
そこで対戦相手はナガマツペアの強みを消すため、「前衛タイプ」の永原選手が後衛に回るよう作戦を立てます。
しかし、永原選手が後衛に回らされたとしても、ナガマツペアは問題なくポイントを取ることができます。
このことから、「ナガマツペア」は「前衛タイプ」と「後衛タイプ」のペアではなく「後衛タイプ」同士のペアと言えるかも知れません。
170 cmの永原選手と177 cmの松本選手のペアは「ツインタワー」として「高さ」に注目が集まっていますが、「後衛タイプ」同士のペアとして「プレースタイル」にも注目してもらいたいと思います。
日本代表選手を他国の選手と比べると?
チェコのエリートバドミントン女子選手の形態・身体組成を報告した研究(Heller 2010)があります。
チェコ選手の平均値は身長が167.6 cm、除脂肪体重が53.6 kgとのことですから、LBMIは19.1 kg/m2となります。
A代表のシングルス選手の値と比べてみると、身長や除脂肪体重はチェコの選手の方が大きいですが、LBMIには違いがないことが分かります。
LBMI は身長を考慮した筋量の指標ですから、A代表のシングルス選手は欧州の高身長の選手と同等の筋量を有していることが分かりました。
バドミントン選手が筋量を増やすことで次のようなことが期待できます。
① 敏捷性が向上することで、コートのより広い範囲をカバーできるようになる。
➁ 跳躍力が向上することで、より高い位置でショットを打てるようになる。
③ 筋力が向上することで、より強いショットが打てるようになる。
①や➁は身長が高い選手の利点と重なりますので、欧州の選手に比べて身長の低い日本代表選手にとっては重要なポイントになるでしょう。
日本代表選手が国際大会で勝つためには、バドミントンのスキルはもちろん筋量も高いレベルにあることが求めれます。
日本代表選手やコーチもこのことを十分に理解しており、日本代表選手は積極的にウエイトトレーニングを行っています。
2016年1月に糸満市で行われた国際大会に向けた強化合宿のスケジュールを見ても、ウエイトトレーニングが行われていることが分かります。
P.S.
バドミントン日本代表の現状からすると、2020年の東京五輪ではすべての種目でメダル獲得ということがあるかも知れません。
「そんなんできる? 言っといてや、できるんやったら」
と言われないように今のうちにお伝えしておきます。
参考資料
・Chino K, Inoue N, Iizuka T, Masuda K, Park JB. Comparison of anthropometric characteristics between elite singles and doubles badminton players. Gazzetta Medica Italiana. 2019; 178: 781-4.
・Heller J. Physiological profiles of elite badminton players: aspects of age and gender. Br J Sports Med. 2010; 44 (Suppl 1): i17.
・Wang Z, Ying Z, Bosy-Westphal A, Zhang J, Schautz B, Later W, et al. Specific metabolic rates of major organs and tissues across adulthood: evaluation by mechanistic model of resting energy expenditure. Am J Clin Nutr. 2010; 92: 1369-77.
・Wang Z, Ying Z, Bosy-Westphal A, Zhang J, Heller M, Later W, et al. Evaluation of specific metabolic rates of major organs and tissues: comparison between men and women. Am J Hum Biol. 2011; 23: 333-8.
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