#35 ランニングウォッチがどうやってVO2maxを推定してるか、わかるよねぇ~??

先週の日曜日、東京マラソンが冷たい雨の降る中、開催されました。

日本記録保持者の大迫傑選手が出場しましたが、残念ながら途中棄権でしたね。

東京マラソンにはトップランナーだけでなく、市民ランナーもたくさん出場します。

最近では光学式心拍計やGPSが内蔵されたランニングウォッチが安価で購入できるようになり、市民ランナーの多くがランニングウィッチを着用しています。

ランニングウォッチは心拍数や距離、速度を測定できるだけでなく、最大酸素摂取量(VO2max)を推定することもできます。すごいですね~ w(゚o゚*)w

VO2max??(;・∀・)??

VO2maxって何か、わかるよねぇ~??

忘れてしまった方は過去のブログを確認して下さい。

https://sports-okinawa.org/top-soccer-players-vo2max/

 

実験室でVO2maxを測定する場合には、トレッドミルで速度を規定してランニングを行い、その際の呼気ガスを分析します。

一方、ランニングウォッチを用いてVO2maxを推定する場合には、速度を規定せずに屋外でランニングを行います。

ランニングウォッチがどうやってVO2maxを推定してるか、わかるよねぇ~??

そこで今回は、

「マラソン わかるよねぇ~?? シリーズ第3章・ランニングウォッチを用いたVO2maxの推定」

をご紹介します。

 

【手順1】ランニング中の心拍数や走速度のデータを取得する。

速度を規定せずに屋外で行ったランニングから信頼性の高いデータを得るには、

– 信号待ちをしているとき

– 急坂や軟らかい地面を走っているとき

– 長時間のランニングによって心拍数が高まっているとき

などの状況を判別し、それらの状況で取得したデータを除く必要があります。

GARMINやSUUNTOにアルゴリズムを提供しているFirstbeatでは、そのような状況を判別する特許技術を有しています。

 

 

【手順2】最大心拍数(HRmax)時の走速度を推定する。

手順1で取得した走速度[m/s]と心拍数[bpm]は下記の図のような直線関係を示します。

信頼性の高い走速度と心拍数の関係を得るため、平坦で硬いところを15分以上かけて走り、心拍数をHRmaxの75%以上まで上げて行くことが推奨されています。

 

HRmaxは220-年齢や210-(年齢×0.65)などから算出でき、その値を走速度-心拍数関係に当てはめることでHRmax時の走速度を推定することができます。

 

【手順3】HRmax時の走速度からVO2maxを推定する。

手順2で推定したHRmax時の走速度[m/s]を下記の式に当てはめることで、VO2max[ml/kg/min]を推定することができます。

VO2max=11.1×HRmax時の走速度+5.3333

 

ランニング中の瞬間的なVO2maxを連続的に表示するランニングウォッチでは、下記の式を用いてVO2max推定しています。

V02max=[-c1×HR/HRmax+(1+c1)]×[11.1×(c2×Angle+1)×走速度+5.3333)]

c1やc2は定数ですが、具体的な数値は公開されていません。

推定式にAngle[rad]を含めることによって、道の傾斜の影響を考慮しています。

 

おわりに

ウェアラブル端末の技術が発展したおかげで、ランニングウォッチを使って容易にVO2maxを推定できるようになりました。

下図のようにVO2maxが高いほどマラソンのタイムが良いという関係が見られます。

 

VO2max[ml/kg/min]からマラソンの記録を予測する式がいくつか報告されています。

マラソンのタイム[秒]=13967-70.44×VO2max (山地ら 1990)

マラソンのタイム[分]=435.58-3.85×VO2max (Foster 1983)

マラソンのタイム[分]=370.9-2.65×VO2max (Haganら 1981)

平均走速度[km/h]=(VO2max-26.4)/2.686【男性】 (MaughanとLeiper 1983)

平均走速度[km/h]=(VO2max-32.3)/1.819【女性】 (MaughanとLeiper 1983)

それぞれの式から自身の推定タイムを求め、マラソンの目標タイムを決める際の参考にしてみてはいかがでしょうか??

 

参考資料

・ Automated Fitness Level (VO2max) Estimation with Heart Rate and Speed Data (Firstbeat社のWhite Paper)

https://assets.firstbeat.com/firstbeat/uploads/2017/06/white_paper_VO2max_30.6.2017.pdf

・METHOD AND SYSTEM FOR DETERMINING THE FITNESS INDEX OF A PERSON (Firstbeat社のPatent)

https://fi.espacenet.com/publicationDetails/description?CC=WO&NR=2012140322A1&KC=A1&FT=D&ND=4&date=20121018&DB=&locale=fi_FI#

・山地啓司、池田岳子、横山泰行、松井秀治.最大酸素摂取量から陸上中長距離、マラソンレースの競技記録を占うことが可能か.ランニング学研究 1990, 1, 7-14

・Foster C. VO2max and training indices as determinants of competitive running performance. J Sports Sci 1983, 1, 13-22

・Hagan RD, Smith MG, Gettman LR. Marathon performance in relation to maximal aerobic power and training indices. Med Sci Sports Exerc 1981, 13, 185-189

・Maughan RJ, Leiper JB. Aerobic capacity and fractional utilisation of aerobic capacity in elite and non-elite male and female marathon runners. Eur J Appl Physiol Occup Physiol 1983, 52, 80-87

#34 大坂なおみ選手の強さの秘密は強い1stサービス??

大坂なおみ選手の昨年からの躍進は目覚ましく、今年の1月にはついに女子テニス協会(Women’s Tennis Association: WTA)のランキング1位に立ちました。

大坂選手と言えばインタビューでの「なおみ節」もチャーミングですが、最大の魅力は試合での強烈なサービスではないでしょうか??

そこで今回は、WTAランキングトップ100の女子テニス選手のサービスの傾向を検討した村田(2018)の概要をご紹介します。

 

サービスに関するスタッツ

女子テニス協会(Women’s Tennis Association: WTA)ランキング100位内の選手を対象に、公式ホームページから下記のスタッツを取得しました。

・サービスエース数(エース数)

・ダブルフォルト数

サービス時の総ポイント取得率(総ポイント取得率)

・1stサービスが入った確率(1st成功率)

・1stサービスが入った際のポイント取得率(1st取得率)

・2ndサービスが入った際のポイント取得率(2nd取得率)

 

また、取得したスタッツから下記のスタッツを算出しました。

・1stサービスでポイントを取得した確率 = 1st成功率 × 1st取得率

・2ndサービスでポイントを取得した確率 = (1-1st成功率) × 2nd取得率

尚、1stサービスでのポイント取得率と2ndサービスでのポイント取得率の和が、上述の総ポイント取得率となります。

 

ランキングとキープ率の関係

ランキングが高い選手ほどキープ率が高く、トップ20の選手では70%程度、100位付近の選手では60%程度でした。

 

総ポイント取得率と1st/2ndサービスでのポイント取得率の関係

サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、どちらのサービスでも高い確率でポイントを取得しており、特に1stサービスでのポイント取得率が高いことが分かりました。

 

総ポイント取得率と1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率の関係

サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、どちらのサービスが入っても高い確率でポイントを取得していましたが、1stサービスが入った際のポイント取得率が特に高いことが明らかになりました。

女子選手の場合、1stサービスが入った際のポイント取得率は60%程度、2ndサービスが入った際のポイント取得率は40~55%程度と報告されていますが、この研究の取得率も同様でした。

尚、男子選手の場合、1stサービスが入った際は70~80%程度、2ndサービスが入った際は40~60%程度の確率でポイントを取得することが報告されています。

 

総ポイント取得率と1stサービスの成功率の関係

1stサービスの成功率は50~70%程度でしたが、サービス時の総ポイント取得率とは関係がないことが分かりました。

上図のように2ndサービスが入った際には40~50%の確率でポイントを取得できることから、1stサービスが入らなくても総ポイント数には影響しなかったようです。

 

ダブルフォルト数とキープ率の関係

1試合あたりのダブルフォルト数は、キープ率にほとんど影響しないことが分かりました。

よって、ダブルフォルトを犯すことよりも、ダブルフォルトを恐れて1stサービスの成功率を低下させたり、弱いサービスを打って1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率を低下させたりする方がキープ率を低下させると考えられます。

 

エース数とキープ率の関係

1試合あたりのエース数が多い選手ほどキープ率が高いことが分かりました。

ただし、ほとんどの選手のエース数が6本以下でした。

ストレートで勝った場合のサービスゲームは6回ですから、女子選手が各ゲームで1本以上のエースを取る確率はかなり低いようです。

 

エース数と1st/2ndサービスが入った際のポイント取得率の関係

1試合あたりのエース数が多い選手は、1stサービスが入った際にポイントを取得する確率が高いことが分かりました。

「エース数の多い選手」とは「強いサービスを打てる選手」と考えられます。

よって、エース数が多かった選手は強い1stサービスでラリーの主導権を握り、3球目以降の攻撃でポイントを取得する確率を高めていたと推察されます。

一方、2ndサービスが入った際のポイント取得率は、エース数によらず概ね一定でした。

 

まとめ

・1試合あたりのダブルフォルト数はキープ率にほとんど影響しませんでした。

・サービス時の総ポイント取得率が高い選手は、1stサービスが入った際のポイント取得率が特に高いことが分かりました。

・1試合あたりのエース数が多い選手は、1stサービスが入った際にポイントを取得する確率が高いことが明らかになりました。

これらの結果から、近年のWTAランキングトップ100の選手では1stサービスでのポイント取得率が重要なため、ある程度のリスクを許容して強い1stサービスを打っていると推察されます。

強いサービスを打ってもエースを取れる確率は低いようですが、ラリーの主導権を握ることができると思われます。

今後大坂選手の試合を見る際には、そのような観点から1stサービスとその後のラリーを見てはいかがでしょうか??

 

おわりに

この研究はランキング100位以内のすべての選手の1試合あたりのスタッツをまとめて分析し、WTAランキングトップ100位以内の選手の全体的なサービスの傾向を明らかにしたものです。

よって、選手ごとやセット/ゲームごとのスタッツを分析すると、この研究とは異なるサービスの傾向が見られる可能性があります。

この研究で用いられている方法で、ご自身や担当する選手のサービスの傾向を明らかにするのはいかがでしょうか??

サービスの戦略を再構築する良いきっかけになるかも知れません。

 

参考資料

WTA トーナメントにおけるトップ100 位選手の2018 年サービスの傾向.村田宗紀.スポーツパフォーマンス研究, 10巻, 354-363ページ, 2018年

http://sports-performance.jp/paper/1844/1844.pdf